下部消化管

下部消化管

当院の大腸グループ(下部消化管グループ)では、小腸・結腸・直腸・肛門の領域を担当します。癌の手術の他に、悪性リンパ腫、GIST、カルチノイドなどの悪性疾患の治療も行います。更に潰瘍性大腸炎、クローン病、家族性大腸腺腫症、ベージェット病などの良性疾患に対する手術治療も行っています。腹腔鏡手術も増加傾向にあり、入院期間の短縮につながっております。さらには、当院では肛門に近い直腸癌に対して究極の肛門温存術式であるISR(内肛門括約筋切除)を導入しております。従来では肛門に近い直腸癌に対しては直腸切断術を行い、永久的な人工肛門(ストーマ)は避けることが出来ませんでした。当院では永久的なストーマを回避して、肛門温存を目指した究極の肛門温存術式であるISRを導入し、その安定した技術により術後のQOLは向上しております。また、止むを得ずにストーマを造設した場合の患者さんに対しては病棟・外来看護師が連携してストーマケアを行なっており、ストーマ外来では退院後の継続的なストーマ治療や御相談に対応しております。

 

●日本における大腸癌治療の概略

大腸癌は、悪性度がそれほど高くはないので、早期であればもちろん、進行癌でも根治的な切除の狙えるケースの多い癌です。切除できる確率は全体の9割前後にもなり、明らかな癌の残りがなく切除できれば、治癒率は7-8割に達します。早期癌では内視鏡で治療する場合が多く、また、進行癌であっても腹腔鏡の発達で、開腹しない切除も増えています。
直腸癌は結腸(直腸を除く大腸)癌と比較して、いくつかの治療上の問題点があります。しかし、直腸癌の治療においても、手術器具や手術法の進歩は著しく、永久的な人工肛門(ストーマ)となることは少なくなりました。また、術後の排尿・性機能障害に対する方策として、排尿や性機能に関連した大事な神経を温存する手術(自律神経温存)が多く行われるようになり、術後の排尿障害や性機能障害を合併する率は低くなっています。

 

●早期癌と進行癌

大腸は結腸と直腸からなっています。右下腹部の虫垂、盲腸から始まって上方へ遡っていく上行結腸、そしてほぼ90度折れてお腹を横断する横行結腸、再び折れ曲がって左腹部を下降する下行結腸、そしてS状結腸、直腸、肛門で構成されています。大腸壁の厚さは約5mmで、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層から成り立っています。癌の深さによって、粘膜癌、粘膜下層浸潤癌、固有筋層浸潤癌、漿膜浸潤癌といった言い方をします。粘膜下層浸潤癌までを早期癌、固有筋層以下に浸潤している癌を進行癌と呼んでおります。どのような切除方法がふさわしいか、治療法を決める最大の要素は癌浸潤の深さ(深達度)です。これは、結腸癌でも直腸癌でも基本的に変わりません。
治療法を左右するもうひとつの大事な要素が、周囲の腸間膜内のリンパ節への転移の有無です。リンパ節は癌細胞などを食い止める関所の役目があって、リンパ管の経路に配置されています。血流に乗って転移する方法と合わせて、リンパ節は2大転移ルートの一つです。 したがって、どこのリンパ節まで転移しているかが、治療方針を決めるうえでとても重要になります。遠くまでリンパ節転移が存在するようであれば、外科手術で切除できる範囲を超えた癌の広がりが既に起きている危険性が高くなります。
病変を切除する方法は、早期癌であれば内視鏡的切除で根治的な治療が可能な場合が多いですが、進行癌であれば基本的に開腹手術あるいは腹腔鏡手術となります。

 

●内視鏡的切除

内視鏡切除とは、肛門からスコープ(カメラ)と切除に必要な器具をスコープから通して挿入して腫瘍を切除する方法です。腹部を切開しないので、術後の痛みはほとんどありません。 多くの場合、当日あるいは2-3日、長くても7日以内で退院可能です。切除方法は患部に器具を到達させ、TVモニターに写った患部を見ながら高周波電流で焼き切ります。大腸癌のなかで隆起が小さいタイプや平坦なタイプの病変では根元の粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させて焼き切ります(内視鏡的粘膜切除、EMR:endoscopic mucosal resection)。また、より大きな病変では、粘膜に生理食塩水を注入し、病変を隆起させたのち、病変周囲の粘膜を電気メスで切開し、粘膜下層を剥離して切除します(内視鏡的粘膜下層剥離術、ESD:endoscopic submucosal dissection)。切除した切片は病理組織検査に送って、癌が粘膜内に留まっているか否かを確認します。病理検査の結果が判明するには、1-2週間かかります。
早期の粘膜癌でも内視鏡で切除できないケースがあります。それは内視鏡の死角ができる部位に癌が存在するときや病変が大きいとき、また粘膜下層に深い浸潤をきたしている場合です。分割して取る方法もありますが、取り残す率が高くなります。

 

●内視鏡的切除の適応

リンパ節転移の可能性がほとんどなく,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあることが条件となるため、以下の条件を満たす場合に適応となります。
(1)粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤癌
(2)最大径 2 cm 未満
(3)肉眼型は問わない
内視鏡治療の適応と治療法を決める際には,腫瘍の大きさ,予測深達度,形態に関する情報が不可欠であり,組織型も考慮する必要があります。
粘膜下層まで達している粘膜下層浸潤癌の一部も内視鏡切除の対象になります。しかし医師にとって難しい判断が要ります。というのも統計上、およそ1割の頻度でリンパ節転移があるからです。リンパ節転移は、手術前の画像検査ではわかりにくい点がやっかいなのです。
そこで内視鏡切除した場合、標本を病理検査に送り、顕微鏡で見て癌が粘膜下層深部まで浸潤していたり、リンパ管に入り込んでいるような場合は、リンパ節転移の危険性が疑われるので、追加腸管切除を受けることをおすすめします。このような場合でも、粘膜下層浸潤癌ではそれより深い浸潤を来している癌と比較してリンパ節転移の頻度がより低いので、治療方法の判断を担当医から患者さんに相談することもあります。

 

●手術療法

大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は,術前の臨床所見(c)あるいは術中所見(s)によるリンパ節転移度と腫瘍の壁深達度から決定します。 手術の目的は癌を含めた腸管を切除することは当然ですが、癌の進行度に応じて、適正に周囲のリンパ節を切除することが重要となります。術前・術中診断でリンパ節転移が疑われる場合には腸管付近のリンパ節(腸管傍リンパ節)だけでなく、癌を栄養している支配血管を含めた中間および主リンパ節の切除(D3 郭清)が重要となります。 一方で、術前・術中診断でリンパ節転移を認めない場合は,壁深達度に応じたリンパ節郭清を行います。 粘膜癌(Tis、M癌)の場合にはリンパ節転移はないの内視鏡的切除となり、手術になることは通常ありません。粘膜下層癌(T1、SM 癌)には約 10%のリンパ節転移があること,中間リンパ節転移も少なくないことから,D2 郭清が必要となります。また、固有筋層に浸潤しているMP 癌(T2)の郭清範囲を規定するエビデンスは乏しいですが,主リンパ節転移が少なからずあることから当院ではD3 郭清を基本術式と考えています。

 

●腹腔鏡による手術の長所と短所

内視鏡治療の適応からはずれた早期の大腸癌は、腹腔鏡もしくは開腹による手術が必要です。腹腔鏡は全身麻酔後、お腹に小さな孔を3-5カ所開け、スコープやその他の手術器具を挿入します。剥離受動後、患部腸管を腹腔より引き出して、切除する手術です。長所は、開腹しないので痛みが軽く翌日から歩けるなど、術後の回復が早いことです。痛み止めの薬剤は開腹した場合、2-3日必要ですが、1-2日で済みます。翌日からは食事を摂れるようになります。退院は手術後1週間から10日ぐらいでできます。短所は、手術時間が開腹よりやや長いことです。リンパ節転移の危険性がある場合、手術時にリンパ節も切除しなければなりません。これをリンパ節郭清と言います。リンパ節は大腸に接して連なっているもの、少し離れて連なっているものと大腸からの距離によって4つに区分されております。遠くのリンパ節群を郭清するほど、手術は大きくなります。腹腔鏡による手術では特に外科医の習熟が必要です。進行癌であっても、条件が整っていれば、腹腔鏡手術によって開腹手術と同様のリンパ節郭清が可能です。しかし、より高度の技術が必要とされますので、手馴れた医師のもとで行うことが条件です。
欧米および日本において、進行大腸癌に対しての腹腔鏡手術の術後生存率は、開腹手術と同様であることが報告されています。                           (文責:大腸外科部長 小山基)

 

(大腸癌手術の関連論文)

・小山基,大腸癌患者の看護に必要な知識①患者の病態を知ろう,消化器外科 NURSING,2000,5,1616-1619
・小山基,下部直腸癌に対する括約筋温存術の適応と限界,外科治療,2003,89,407-412
・小山基,S状結腸・直腸S状部切除術,消化器外科,2004,27,1257-1264
・小山基,肛門管癌ー実際の治療ー,消化器外科,2009,32 ,939-944
・小山基,【Ⅵ肛門 腫瘍】肛門類基底細胞癌,消化管症候群(第2版)(下),別冊日本臨牀 新領域別症候群No12,東京,日本臨牀社,2009,p759-762
・小山基,側方郭清術:予防的側方郭清と治療的側方郭清,臨床外科,2010,65,285-291
・小山基,内肛門括約筋切除術の長期術後成績からみた術前放射線療法の適応,癌と化学療法,2011,38,2106-2109
・小山基,直腸癌局所再発に対する集学的治療の現況と治療成績,癌と化学療法,2012,39,1911-1913
・小山基,下部直腸癌に対する肛門機能温存術式の術後QOLの評価,癌の臨床,2013,59,687-693
・小山基,大腸癌イレウスに対する治療戦略,日本腹部救急医学会雑誌,2013,33,953-961
・小山基,直腸癌局所再発に対する外科治療(集学的治療),臨床外科,2014,69,1196-1203
・M Koyama, Long-Term Clinical and Functional Results of Intersphincteric Resection for Lower Rectal Cancer, Ann Surg Oncol, 2014, 21, S422-428
・小山基,直腸癌局所再発に対する集学的治療な外科治療成績,癌と化学療法,2014,41,1459-1461
・小山基,一時的ストーマ造設を伴わないISRのコツと術後成績,臨床外科,2014,69,292-298
・M Koyama, Risk factors for anastomotic leakage after intersphincteric resection without a protective defunctioning stoma for lower rectal cancer, Ann Surg Oncol, 2015, DOI 10.1245/s 10434-015-4461-z

 

(大腸癌化学療法関連論文)

・小山基,切除不能進行・再発大腸癌に対する二次治療としてのBevacizumab併用化学療法,癌と化学療法,2010,37,1069-1073
・小山基,病理学的分子マーカーからみたStageⅡ大腸癌の予後規定因子,癌と化学療法,2013,40,1650-1652
・小山基,病理学的因子からみたStageⅢ大腸癌の再発危険因子,日本大腸肛門病学会雑誌,2015,68,68-74

 

(炎症性腸疾患・大腸腺腫症関連論文)

・小山基,家族性大腸腺腫症に対する結腸全摘・回腸直腸吻合術の長期術後成績,日消外会誌,2004,37,1509-1516
・小山基,大腸ポリポージスと関連疾患 Ⅱポリポーシス (1)家族性大腸腺腫症 b.外科治療,早期大腸癌,2005,9,511-516
・小山基,Crohn病(CD)の腸病変に対する開腹手術,手術,2006,60,161-167
・小山基,家族性大腸腺腫症に対する予防的大腸手術の治療戦略,家族性腫瘍,2010,10,27-31

 

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