呼吸器外科

肺癌に対する“切らない、手術をしない”で治す低侵襲治療    『ラジオ波治療』及び『凍結治療』、および『凍結+ラジオ波の  併用療法』            

柏厚生総合病院の呼吸器外科では原発性肺癌および転移性肺癌に対するラジオ波治療、凍結治療、凍結+ラジオ波の併用療法を積極的に行っています。

ラジオ波治療:ラジオ波とはAMラジオで使われる周波数に近い約450キロヘルツの高周波です。腫瘍の中に直径1.5ミリ(17ゲージ)の電極針を刺入してラジオ波電流を流し、電極周囲に熱(70-80度)を発生させることでがん細胞を凝固壊死させます。当院の呼吸器外科、野守医師は以前、2009年まで肺腫瘍に対するラジオ波治療を行ってきました(雑誌CHEST,Nomori et al., 2005年に掲載)。

凍結治療:2009年から凍結治療に切り替えました。理由は①凍結治療はラジオ波治療より大きな腫瘍を治療できること、②治療中の患者様の苦痛が少ないの2点です。そしてその後、凍結治療500例以上に携わってきました。当初はアルゴンガスを凍結に用いていましたが、現在ではアルゴンガスよりパワーの強い液体窒素を用いています。腫瘍に針を刺して、その針の中に液体窒素を循環させて、腫瘍をマイナス170度からマイナス50度に凍らせます(雑誌European J Radiology, Nomori et al., 2022年)。

凍結治療+ラジオ波治療の併用療法/130度の温度差を利用で癌を死滅
:2024年より新たに凍結治療とラジオ波治療の併用を行い始めました。理由はラジオ波単独治療および凍結単独治療では腫瘍サイズが大きい場合や腫瘍が凍結・加熱それぞれに抵抗性の場合などに治療した部位からまた腫瘍が再発する“局所再発”を生じることがあるからです。凍結治療に引き続きラジオ波治療を加えることで、腫瘍の温度をマイナス50度以下から一気にプラス80度まで上げることができ、その急激な130度の温度差は凍結単独あるいはラジオ波単独より強いダメージを腫瘍に与えます。ラジオ波および凍結治療で再発した症例にも治療できます。

ラジオ波治療、凍結治療、両者の併用療法の選択:凍結治療(自費診療:55万円)および併用療法(自費診療:70万円)と比べたラジオ波の利点は医療保険が効くことです。凍結治療がラジオ波治療より薦められる場合は①腫瘍が1.5 cm以上、②腫瘍の位置が太い血管や気管支に近い、③間質性肺炎を伴っている場合など、ラジオ波が使用できない場合です。そして腫瘍が2cm以上と大きい場合、PET検査で高い悪性度が予測される場合、腫瘍の増殖速度が速い場合、ラジオ波で再発した場合は凍結治療+ラジオ波治療の併用療法をお薦めしております。

“ラジオ波治療”の詳細をお知りになりたい方は以下にアクセスしてください。
≫ラジオ波治療の詳細
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“凍結治療+ラジオ波治療の併用療法/130度の温度差で癌を死滅”を利用の詳細をお知りになりたい方は以下にアクセスしてください。
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放射線治療に効かない骨転移に対するラジオ波治療および凍結治療

当院では放射線治療の効かない骨転移に対して、ラジオ波治療および凍結治療も行っています。除痛効果は70%以上と報告されています。但し、脊椎転移、骨転移から2cm以内に温度変化に弱い臓器(神経、腸など)がある場合にはラジオ波治療も凍結治療も不可能となります。

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骨転移に対するラジオ波治療および凍結治療の詳細

手術および放射線治療が不可能な肺の根元の肺癌に対する “腫瘍血管塞栓術”いわゆる “兵糧攻め”治療

手術や放射線治療が不可能な「肺の根元(肺門)や胸の中央(縦隔)に存在する治療としての“血管カテーテルによる腫瘍血管塞栓術”いわゆる癌に対する“兵糧攻め”治療があります。この治療は放射線科医師との共同で行います。
この治療は2020年の国際医学雑誌、European J Radiologyに当院呼吸器外科、野守医師が発表しています。

腫瘍血管塞栓術の詳細をお知りになりたい方は以下にアクセスしてください。
血管カテーテル治療(腫瘍血管塞栓術)の詳細

 

3-5cmの肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術

肺は右肺が上葉、中葉、下葉に、左肺は上葉、下葉の5つの房状(肺葉)に分かれています。肺癌が5cm以下であれば、胸腔鏡を用いて5cmほどの皮膚切開で、カメラで映し出されたモニターを見ながら病巣のある肺葉と周囲のリンパ節を切除する根治術を行っています。現在では世界中で広く行われている手術です。

3cm以下の肺癌に対する縮小手術としての区域切除

当院における外科治療の特徴として、3cm以下の肺癌に対して“区域切除”という肺を小さく切除する手術を積極的に行い、肺機能を温存し術後の体力が温存できるようにしています。その際には皮膚切開の大きさは10-15cmほどの小開胸で行います。胸腔鏡下肺葉切除よりやや大きくなりますが、術後の痛みは胸腔鏡の手術と比べて変りません。区域切除を胸腔鏡で行う場合もありますが、肉眼で直接見るのに比べて、細かい解剖を同定できないので、当院では開胸で行っています。
術後の疼痛度を1~10に分けて手術当日から術後7日目まで調べた結果を図に示します。このデータは当院の野守医師が2016年に国際雑誌[Surgery Today]に論文発表したものです。小開胸下での肺区域切除と胸腔鏡下の肺葉切除の痛みは全く差がありません。そのため区域切除には正確な手術ができる開胸手術をおこなっています。

肺葉切除と区域切除の術後肺機能

以下のグラフは区域切除192例と肺葉切除220例の手術後の肺機能を比較したデータです。
肺葉切除が術後肺機能を約87%に低下させるのに比べて、区域切除は95%ほどにしか低下しません。87%と95%の差は少ないように見えますが、肺機能が術前に比べて50%に低下すると通常の生活はできなくなりますので、87%と95%の差は大きく、実際に日常生活で大きな差があります。肺は切除後に再生しないので、一度失われた肺機能は戻りません。区域切除では肺機能が温存されるので、手術後の体力がほとんど低下しません。

区域切除の術後生存率

国の大規模試験により2cm以下の肺癌に対する肺葉切除と肺区域切除の術後生存率が報告され、区域切除は肺葉切除より生存率が高いことが報告されました。その理由は“区域切除では肺機能が温存されることにより、余病が出にくくなった”と推察されています。2012年から2019年にかけて439例の3cm以下の肺癌の手術の内、図の如く62%の270例に対して区域切除を行いました。
区域切除後の無再発率(治癒率)を示します。腫瘍が1cm以下では再発例はなく、2cm以上でも80%以上の治癒率を得ており、肺葉切除と変わりありません。区域切除の方が肺葉切除より明らかに肺機能を温存できるので、小開胸による区域切除は治癒率の高い低侵襲手術です。

なお当院の野守医師は区域切除の教科書および手術ビデオを国内、国外に出版しています。

進行肺癌に対する術前放射線化学療法後の手術療法

肺の周囲に浸潤している肺癌やリンパ節転移のある肺癌に対しては手術前に放射線療法と抗がん剤治療を行って、腫瘍を小さくし癌の勢いを弱めてから手術をした方が術後の再発が少なくなります。局所に浸潤あるいはリンパ節転移のある肺癌に対して術前に放射線治療と抗がん剤治療を行ってから手術を行いました。肺癌を代表する腺癌および扁平上皮癌の両方において65%以上の高い5年生存率を得ております。

小さな肺病変に対するCT透視下での針生検

最近はレントゲン写真ではわからず、CTで初めて見える小さな肺癌が増えてきました。そのような場合、「恐らく癌だから手術をしましょう」「癌かどうか判らないから様子を見ましょう」などという意見もあります。しかし“癌でなかった場合には無駄な手術になる”、“癌であった場合はラジオ波治療、凍結治療、放射線治療の低侵襲治療の選択肢が無くなる”“癌であった場合に様子を見ると癌が進行する”という欠点があります。当院ではCT室にて針生検(病変の一部を針で採取)をします。5mm以下の病変でも95%の確率で診断ができます。写真は5mmの病変に対して針生検を行い、腺癌と診断された症例です。

小さな肺腫瘍に対する造影剤によるマーキング後の切除術

小さな肺癌は手術中に目で見ても触っても判らないことが多くあります。それに対して術前に造影剤によるマークを行うことにより、どんな小さな肺癌でもその位置を手術中に見極め正確な切除が可能となります。
図は微小肺癌ですが、それに対して造影剤をCT室で病変に注入しマークします。このように造影剤でマークすると、手術中にその病変が正確に判り、正確に切除ができます。

気管支の中枢にできた肺癌に対する気管・気管支形成術

気管や太い気管支に浸潤している癌は通常ですと手術不能、あるいは肺全摘を必要とすることがありますが、当院では気管・気管支の癌の浸潤部位のみを切除して肺を温存することを積極的に行っています。
写真は右上葉の根元に生じた肺癌で、手術を先行すると肺全摘が必要になります。これに対して抗がん剤+放射線治療後に右上葉+気管分岐部の切除を行いました。術後5年間、再発なく社会復帰しております。

呼吸器外科部長、野守裕明の履歴

1979年3月 慶應義塾大学医学部 卒業
1979年4月 慶應義塾大学病院 外科研修医
1980年5月 国家公務員共済組合連合会立川病院 外科
1981年6月 国立埼玉病院 外科
1982年7月 国立がんセンター 外科レジデント
1985年6月 慶應義塾大学医学部 呼吸器外科
1988年5月 東京都済生会中央病院 呼吸器外科
2005年4月 熊本大学医学薬学研究部 呼吸器外科教授
2009年4月 慶應義塾大学医学部 呼吸器外科教授
2012年8月 亀田総合病院 呼吸器外科顧問
2019年5月 柏厚生総合病院 呼吸器外科部長

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