呼吸器外科

肺癌に対する“切らない”で治す低侵襲治療『局所麻酔下の凍結治療』

当院の外科治療のひとつの特徴として肺がんに対する凍結治療があります。

最近はCTにより超早期肺癌と言われる小さな肺癌や、他臓器の癌からの小さな肺転移が見つかるようになりました。その場合でも標準治療は手術ですが、手術以外の低侵襲治療もあります。非手術治療で代表的なものは放射線治療(定位照射あるいはピンポイント照射)ですが、当院では肺癌に対する低侵襲治療として“局所麻酔下の凍結治療”も行っています。放射線照射と比べた凍結治療の最大の利点は“肺機能がほとんど低下しない”ことです。

凍結治療に用いられる針は、その周囲約4-5cmの範囲で癌とその周囲の正常組織を凍らせます。以下の図は水の中に凍結針を入れて凍結させた写真ですが、体の中でもこのように組織が凍結されます。

凍結治療はCT室で行うもので、凍結針を刺す場所に局所麻酔をして腫瘍に刺して、凍結して癌を死滅させる治療です。局所麻酔で行いますので手術に比べると低侵襲な治療です。

下の図は凍結治療中、治療後のCT写真です。肺の部位に凍結用の針が刺入され、がんの周囲を凍結させます。治療後、凍結した部位は6ヶ月ほどの間で徐々に縮小していきます。

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手術および放射線治療が不可能な肺の根元に存在する肺癌に対する “カテーテル治療(腫瘍血管塞栓術)”、いわゆる “兵糧攻め”治療

当院の呼吸器外科における治療のもうひとつの特徴として手術や放射線治療が不可能な「肺の根元(肺門)や胸の中央(縦隔)に存在する治療としての“血管カテーテル治療(腫瘍血管塞栓術)”、いわゆる癌に対する“兵糧攻め”治療があります。

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3-5cmの肺癌に対する低侵襲治療、胸腔鏡下肺葉切除術

肺は右肺が上葉、中葉、下葉に、左肺は上葉、下葉の5つの房状(肺葉)に分かれています。肺癌が5cm以下であれば、低侵襲治療として、胸腔鏡を用いて5cmほどの皮膚切開で、カメラで映し出されたモニターを見ながら病巣のある肺葉と周囲のリンパ節を切除する根治術を行っています。現在では全国で広く行われている治療です。

3cm以下の肺癌に対する低侵襲治療、当院独自の小開胸による区域切除

当院における外科治療の特徴として、肺癌の大きさが3cm以下の場合には低侵襲治療として、原則的に区域切除という肺を小さく切除する手術を行い、肺機能を温存し、術後の体力が温存できるようにしています。その際には皮膚切開の大きさは8-10cmほどで胸腔鏡下肺葉切除よりやや大きくなりますが、当院では胸の開け方と閉め方において独自の工夫をしており、その結果、術後の痛みは胸腔鏡の手術と比べて全く変りません。

以下のグラフの如く、術後の疼痛度を1~10に分けて手術当日から術後7日目まで調べてみますと、我々の小開胸下での肺区域切除では胸腔鏡下の肺葉切除と同じくらい、術後の痛みが少ないことが判っており、肺機能温存のみならず、術後の痛みにおいても低侵襲治療であることが証明されています。図は当院の野守裕明が2016年に論文発表した術後疼痛度のデータですが、術後の疼痛は胸腔鏡手術と小開胸の間に全く差はありません。

肺葉切除と区域切除の術後肺機能

以下のグラフは当院の野守裕明が、区域切除192例と肺葉切除220例の手術後の肺機能を比較したデータですが、肺葉切除が術後肺機能を約87%に低下させるのに比べて、区域切除は95%ほどにしか低下しません。87%と95%の差は一見少ないように見えますが、肺機能が術前に比べて50%に低下すると、通常の生活はできなくなりますので、87%と95%の差は大きいです。肺は切除後に再生しないので、一度失われた肺機能は戻りません。区域切除よりも肺葉切除の方が肺機能が温存されるので、手術後の生活の質がほとんど低下しません。

区域切除の術後生存率

2012年から2017年にかけて、378例のT1N0M0肺がん(早期肺がん)に対して手術を行ってきましたが、そのうち約60%の223例に対して区域切除を行ってきました。60%という区域切除の比率は全国的に比べると高い数値であり、積極的に区域切除を行っている証拠です。

図に区域切除後の無再発生存率を示します。腫瘍のサイズが大きくなると再発率が高くなりますが、概ね90%以上の無再発生存率を得ており、肺葉切除と変わりありません。区域切除の方が肺機能を温存できるので、小開胸による区域切除は胸腔鏡下による肺葉切除に比べて低侵襲な手術治療と言えます。

なお当院の野守裕明は区域切除の教科書および手術ビデオを国内、国外に出版しています。

進行肺癌に対する術前放射線化学療法後の手術療法

肺の周囲に浸潤している肺癌やリンパ節転移のある肺癌に対しては手術前に放射線療法と抗がん剤治療を行って、腫瘍を小さくして、癌の勢いを弱めてから手術をした方が、術後の再発が少なくなります。当院では遠隔転移がなければどのような進行性肺癌でもほとんどの患者さまに対して、手術前の放射線治療と抗がん剤治療を行った後に完全切除を行っています。

海外から発表されたデータでは、放射線+抗がん剤治療を行ってから手術を行った症例と、放射線+抗がん剤治療のみの治療を比較した結果、手術を追加した方は生存率は25%で、手術を追加しなかった方は生存率は15%であり、手術を追加した方が生存率が高いことが証明されています。

以下の図は当院の野守裕明の経験です。周囲臓器に浸潤している肺がんと、縦隔リンパ節転移のある肺がんに対して術前に放射線治療と抗がん剤治療を行ってから手術を行った、それぞれの成績を示してます。それぞれ生存率が60%、40%であり、前記した海外の治療成績より生存率が高いことが示されています。癌が進んで手術ができないと言われた患者さんで、手術の可能性を期待される方はご相談ください。

小さな肺腫瘍に対する造影剤によるマーキング後の切除術

小さな肺癌は手術中に目で見ても触っても判らないことが多くあります。それに対して術前に造影剤によるマークを行うことにより、どんな小さな肺癌でもその位置を手術中に見極め完全切除が可能となります。
下図は微小肺癌ですが、それに対して造影剤をCT室で病変に注入しマークしたところです。このように造影剤でマークすると、手術中にその病変が正確にわかります。

気管支の中枢にできた肺癌に対する気管・気管支形成術

気管や太い気管支に浸潤している癌は通常ですと手術不能、あるいは肺全摘を必要とすることがありますが、当院は気管・気管支の癌の浸潤部位のみを切除して肺を温存することを積極的に行っています。但し、肺の手術の中で難度の高い手術となり、ある程度の危険性を伴います。

気管・気管支形成術のなかで最も難度が高い気管分岐部切除再建を2018年の呼吸器外科学会総会でビデオ発表しましたので、それを以下に示します。この患者は術後1年3ヶ月、無再発生存しております。

文責:呼吸器外科 野守裕明

経歴

1979年3月 慶應義塾大学医学部 卒業
1979年4月 慶應義塾大学病院 外科研修医
1980年5月 国家公務員共済組合連合会立川病院 外科
1981年6月 国立埼玉病院 外科
1982年7月 国立がんセンター 外科レジデント
1985年6月 慶應義塾大学医学部 呼吸器外科
1988年5月 東京都済生会中央病院 呼吸器外科
2005年4月 熊本大学医学薬学研究部 呼吸器外科教授
2009年4月 慶應義塾大学医学部 呼吸器外科教授
2012年8月 亀田総合病院 呼吸器外科顧問
2019年5月 柏厚生総合病院 呼吸器外科部長

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