当科の診療の特色
肝臓内科は肝臓疾患のみならず、胆道疾患(胆嚢、胆管)、膵臓疾患に対して幅広く診断ならびに治療を行っています。
①肝臓疾患について
肝臓は、へその右上、右の肋骨の後ろに位置する内臓です。肝臓の働きは、栄養、代謝、免疫、解毒、排泄など様々な役割を果たしています。肝心(肝腎と表記することもありますが)、肺や心臓、脳と同じく人にはなくてはならない臓器です。
健康診断の二次検診でもっとも多い受診が肝機能障害といわれています。肝臓は機能が多い分、様々な要因でダメージを受けやすく、また診断治療に際しても専門的知識と経験が必要とされています。現在日本肝臓学会では非アルコール性脂肪肝性肝炎による肝硬変伸展や肝臓癌合併が問題の1つとされていますが、二次検診で単なる脂肪肝と診断された後、肝臓専門医を受診したところ、非アルコール性脂肪性肝炎と診断され通院治療が必要になった、ということは良くある話です。
どんな病気でもそうですが、疾患には急性疾患/慢性疾患、軽症疾患/重症疾患、良性疾患/悪性疾患、とありますが、当科の特色は急性重症疾患(急性重症肝不全)から悪性疾患(癌)まで全てに対応しております。またポルフィリン症などの稀な難病にも対応しております。
日常診療においては、外来において肝機能障害など精査目的に受診された患者様の場合、診察の上、血液検査と画像検査を行い診断をします。またこれらの結果、必要あれば1泊2日で入院いただき、組織学的検査まで含めて診断し、外来にて適切な治療を行います。
救急診療においては、重症かつ緊急性の高い疾患に対しては、即座に対応しています。例えば、肝膿瘍(肝臓に細菌感染などで膿が溜まっている疾患)では、緊急で穿刺ドレナージを行い、集中治療を行います。重症急性肝不全(何らかの原因で数日から数週間で肝臓の機能が働かなくなる疾患、状況次第で肝移植が必要になります)のでは、血漿交換などの集中治療を行い救命します。万一これら保存的治療で救命が難しい場合は、緊急肝移植に繋げるなどの役割も担います。
また、もっとも当科で多い疾患である肝硬変という慢性的な機能不全となった状態の肝疾患に対しても、エビデンスレベルの高い薬物療法やCART(腹水濃縮寒流)などの腹水治療、食道や胃の静脈瘤治療を含めて対応しております。特に静脈瘤破裂は緊急かつ重症度の極めて高い消化管出血であり、止血処置後も厳密な入院管理を要します。これに対しても速やかに対応しています。肝硬変に合併しやすい肝細胞癌などの悪性腫瘍に対しては、最新の知見を元に化学療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など)を用い、ラジオ波焼灼術(腫瘍部を穿刺し焼灼する治療)、TACE(肝動脈化学塞栓療法、カテーテルを用いた治療法)などの局所治療も行い、根治を目指した治療を行っています。
肝臓の疾患においては、血液検査、画像検査だけでなく、穿刺(肝生検や肝膿瘍に対する穿刺ドレナージ、ラジオ波焼灼術など)、内視鏡を用いた検査治療、カテーテルを用いた治療など検査及び治療においてリスクの高い処置が多岐にありますがいずれに対しても対応し良好な結果を得ております。
②胆管疾患について
胆道は肝臓で作られた胆汁が肝臓⇒十二指腸にながれる管です。出口部付近で膵管(膵臓からでる膵液という消化管が流れる管)と合流し十二指腸に胆汁を注ぎます。胆管が詰まると胆汁が流れなくなり黄疸が起こります(肝不全でも黄疸は起こります)。
胆管の疾患も肝臓と同じく、急性疾患/慢性疾患、良性疾患/悪性疾患があります。肝臓と異なるのは、肝臓のような細胞の塊の臓器を実質臓器とよぶのに対して胆管胆道は管腔臓器/管状の臓器です。このため、様々な検査治療において、血液検査や画像検査の他内視鏡を用いた検査が多用されます。
胆管の出口は、十二指腸に注いでいます。内視鏡を十二指腸の胆管出口まで進め、そこから胆管/膵管内に道具を入れて検査を行うERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatograhy 内視鏡的逆行性胆管膵管造影)とその応用手技を使用して様々な検査ならびに治療を行います。
例えば、胆石が胆管に詰まって重篤な感染を起こした場合、抗生剤のみならず、ERCPを用いて閉塞解除を行う必要があります。これらに対して夜間でも緊急で対応しています。また、胆管癌で胆管閉塞し黄疸となった場合も、閉塞解除が必要となりますが、これに対しても後々の治療戦略(外科手術か化学療法かなど)を含めてステント治療を行ったり、細胞検査を行ったりしています。そのほか内視鏡に超音波を先端につけた超音波内視鏡という装置を用いても検査ならびに処置も行っています。
胆管に対する処置の中で、胃切除などを施行した患者様に対しては小腸内視鏡を用いた処置が必要となります。当院ではこれら処置のための小腸内視鏡を常備していますので、胃切除後などの患者様に対しても緊急処置を問題なく行っております。当院では胆道疾患に対する内視鏡手術のほぼ全てを施行可能であり、良好な成績を得ています。
胆管疾患は内視鏡処置だけでなく、原発性胆汁性胆管炎や原発性硬化性胆管炎などの難病もあり、これらの診断と薬物治療を行っております。また胆管癌StageⅣに対する薬物療法に対しても積極的に取り組んでおり、近年では、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療法も行い、患者様とともに疾患と向き合っています。
膵疾患
膵臓はへその上の真ん中あたりにある内臓です。膵液という強力な消化液の分泌とインスリンに代表されるホルモンの分泌を行っている臓器です。
膵臓の病気というと一般には膵癌が有名ですが、膵癌という悪性の腫瘍性疾患だけでなく良性疾患も数多くあります。また腫瘍性疾患だけでも膵嚢胞性疾患(IPMN,MCN,SPN)など様々あり、似て非なるこれらの疾患を一つ一つ丁寧に診断し、治療を行っています。
膵疾患の場合、肝臓・胆道疾患と同様に、急性/慢性,良性/悪性がありそれぞれ異なります。肝臓と比較して馴染みが少ないため理解しにくい病気も多数あり、これらに対して丁寧に説明するように心がけています。
膵疾患の検査治療の特徴としては、胆道疾患で述べたERCPという内視鏡治療を応用した手技の他に、EUS(超音波内視鏡)を用いた検査治療があります。先端に超音波がついた特殊な内視鏡を用いて、胃や十二指腸内腔から膵臓を観察し、膵臓を細かく観察したり、そこから針を出して膵臓を直接刺して細胞を採取したりします(EUS-FNA/B 超音波内視鏡下穿刺吸引法/生検法)。細胞の検査により、手術前に細胞を診断することで、これまで手術により診断されていた疾患の手術が回避できることもあります。また、この技術を応用して膵周囲の膿瘍治療など、従来では外科手術を要した症例も手術を回避できるようになりました。
膵疾患の急性疾患の代表に急性膵炎があります。腹腔内の壊死を来すような重症急性膵炎は、高次医療機関での治療が推奨されています。人工呼吸器や、血液濾過透析など様々な治療を要し、厳密な集中管理、上述のEUSを用いた内視鏡手術が必要になるためですが、当院で治療可能です。事実当院では2019年より積極的に腹腔内壊死を伴う重症膵炎の治療を引受けておりますが、これまで全て救命できております。
膵嚢胞性疾患についても、日本だけでなく海外のガイドラインを参考に適切な診療を行っており、膵癌に対しても肝癌、胆道癌同様に最新の知見をもとに最適な化学療法を積極的に行っています。
*慢性膵炎の膵石に対するESWL(体外衝撃波結石破砕術)は当院では行っておりませんので、こちらは他院に紹介となります。
以上のように当科の特色は2つあります。1つめは肝胆膵疾患に対して、肝炎、膵炎、胆管炎などの急性期疾患から肝硬変などの慢性期疾患、肝癌、胆管癌、膵癌の悪性腫瘍まで対応できることです。2つ目は内視鏡や穿刺治療などの手技的治療においても、これまでの豊富な経験と最新の知見を常に取り入れ、最新の治療も大体は処置可能であることがあげられます。二次救急病院だからできない、ではなく二次救急病院であっても高次医療機関と同じ医療を提供するように心がけています。
患者様へ
全てに対して粉骨砕身取り組ませていただいております。特に救急疾患はCOVID19の第3波の経験を糧に、医療難民を決して作らないよう、積極的に受け入れに取り組んでおります。
大切なことは、患者様が病気という怖さ、病気という苦しみから少しでも早く解放されること、そのために常に患者様に寄り添う診療を科の方針とし、患者さんの笑顔と安心を守れるように日々診療しています。当院は肝胆膵診療医師が少ないため100%の対応ができないこともありますが、その場合も周囲医療機関と連携をとりできる限り患者様が少しでも早く病気から解放されるお手伝いはしたいと考えております。
何かお困りの事があれば、お問い合わせください。