凍結治療の詳細

CT室で全身麻酔後、凍結針を写真のように腫瘍に刺して凍結融解を繰り返します。
写真は凍結治療中、治療後のCT写真です。肺の部位に凍結用の針が刺入され、がんの周囲を凍結させます。治療後、凍結した部位は6ヶ月ほどの間で徐々に縮小し瘢痕状になります。

凍結治療に用いられる針は、その周囲約4cmの範囲で癌とその周囲の正常組織を凍らせます。写真は水の中に凍結針を入れて凍結させた写真ですが、体の中でもこのように組織が凍結されます。
現在まで当院呼吸器外科の野守医師が行った肺癌に対する凍結治療の成績は2020年に国際雑誌European Journal of Radiology, 2020年に国際凍結治療学会、2022年に国際雑誌Clinics in Oncologyで発表しております。

肺癌に対する凍結治療は当初は局所麻酔で行っていましたが、2020年より全身麻酔で行うようにしました。軽い全身麻酔なので、治療が終わった直後より意識は清明で歩くことができます。傷は針の孔だけなので痛みはほとんど無く、通常治療後3-4日目には退院でき、退院後翌日からは通常の社会生活に復帰できます。そのため手術が困難であるといわれる高齢者あるいは体力に余裕のない患者様、また手術を希望されない患者様にはこの凍結治療を行っています。

凍結治療が適応となり得る腫瘍を以下に列挙します。
1 .腫瘍のサイズが原則として3cm以下の原発性肺癌あるいは転移性肺癌。
2 .病変の数が原則として3個以内。
3 .但し、病変が3個以上の多数の転移性肺癌でもその内の1-2個が大きく、大きな転移巣により余命が短くなる可能性がある場合には余命延長目的で凍結治療の適応となります。
4 .放射線治療後の肺病変の再発。
5 .手術療法が本人にとって危険性が高い。
6 .手術療法が危険でなくても、本人が手術療法あるいは放射線療法より凍結治療を強く希望する。

原発性肺癌に対する凍結単独治療の現在までの成績

2020年10月に国際医学雑誌、European Journal of Radiologyに原発性肺癌に対する凍結単独治療の成績を当院の野守が発表しましたので、その成績を紹介します。局所制御率(凍結部位から再発しない確率)を腫瘍のサイズ毎にグラフに示します。“1.2cm以下では局所制御は100%”, “1.3 – 1.7cmでは96%”と良好ですが、“1.8cm以上では55%”と低下します。

 

“1.8cmより大きな肺癌”に対する治療成績を上げるために行い始めたのが “放射線治療後+凍結治療”の併用療法

そこで当院では1.8cm以上の肺癌に対しては”放射線治療+凍結治療“の併用を行っています。ピンポイント放射線照射を4-5回行った後、1ヶ月以内に凍結治療を追加する方法です。以下の写真は脳転移があった肺癌患者様ですが、脳転移はガンマナイフで治療し、原発巣に対してピンポイント放射線治療+凍結治療を行いました。2年6か月後の現在、脳転移を含めて原発巣の再発もありません。

現在まで65人の患者様にピンポイント放射線照射+凍結治療を行ってきました。60人に再発がなく5年間の局所制御率は90%です。1.8cm以上の肺癌に対する凍結単独治療の局所制御率が55%なので、放射線治療を加えることにより局所制御率は高くなります。

一方、放射線治療単独では2cm以下の肺癌と2cm以上の肺癌に対する5年生存率はそれぞれ90%と50%と報告されています。そのため2cm前後より大きな肺がんに対してはピンポイント放射線治療+凍結治療の併用療法は放射線治療単独より治癒率が高いことが予想されます。
肺にピンポイント放射線治療すると放射線性肺炎という肺炎が5%生じると言われています。ピンポイント放射線治療+凍結治療で肺炎を生じて治療を要した患者様は65人中3人(5%)ですので、凍結治療を加えることにより放射線性肺炎を増悪させることはありません。

転移性肺癌に対する凍結治療

121個の転移性肺癌に対して凍結治療を行ってきました。2022年6月に国際医学雑誌、Clinics in Oncologyに発表した転移性肺癌に対する凍結単独治療の成績を紹介します。局所制御率(凍結部位から再発しない確率)は転移が2.2cm以下では96%”と良好ですが、2,2cm以上では55%に低下します。

2022年の日本癌治療学会、日本肺癌学会でも発表しております。現在、2.2cm以上の転移性肺癌に対しては、凍結針を2本用いて凍結範囲を広くすることにより局所制御率を上げるようにしています。

抗がん剤治療が無効の進行肺癌に対するアブスコパル効果(凍結免疫効果)を狙った『凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用』

凍結治療には “アブスコパル効果”という免疫効果があることが以前より知られています。その機序は“凍結で死滅した腫瘍がワクチンとして作用する”からです。腫瘍は凍結直後に死滅し、それまで細胞膜で保護されていた腫瘍抗原が一気に腫瘍の外に放出されます。そこに体の免疫細胞が集まり癌抗原を認識します。
一方、免疫チェックポイント阻害剤という免疫療法薬が肺癌に使用されており、それを投与すると “癌のバリア”が解除され、さらに免疫細胞が癌を攻撃しやすくなります。そこで当院では、抗がん剤治療が無効の進行肺癌に“凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用”を臨床研究として行っています。

「凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用」の詳細をお知りになりたい方は以下にアクセスしてください。
≫凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用療法

 

切除不能あるいは放射線治療抵抗性の胸腔内腫瘍に対する手術中の凍結治療

切除不能あるいは放射線治療抵抗性の胸腔内腫瘍においても手術中に凍結治療を行うことが可能です。
以下の症例は心臓に生じた肉腫であり、手術で行い人工心肺を用いて心臓の動きを止めて、腫瘍に凍結用の針を刺し凍結治療を行いました。

患者様のCT写真と手術中の写真です。患者様は翌日には歩くことができ、1週間後に退院しました。腫瘍も治療後縮小しました。

凍結治療と他の治療との比較

1 ラジオ波照射との比較
凍結治療の利点
ラジオ波治療は治療した部位における肺のダメージが強いために、太い血管や気管支があると、治療後しばらくしてからの喀血、肺膿瘍(肺の中の感染)を生じる危険性がありますが、凍結治療の場合にはほとんどありません。また間質性肺炎が合併している患者様にはラジオ波治療は禁忌ですが、凍結治療は間質性肺炎を増悪することはほとんどありませんので安心して使用できます。また凍結治療の際に腫瘍は凍結して壊死するので、蛋白が変性せず癌細胞の死骸として残りワクチン効果を発揮し、他の転移巣が治療を加えずとも縮小することがあります。これを凍結免疫効果と言われています。ラジオ波では蛋白が変性するので、その効果はありません。
凍結治療の欠点
保険診療ではないため自費診療となり、保険診療のラジオ波治療と比べて高額となります。

2 放射線療法との比較
凍結治療の利点
凍結治療が放射線治療より優れた点は
1.放射線治療は肺機能の低下を生じますが、凍結治療は肺機能の低下をほとんど生じません。理由は放射線治療後の瘢痕は大きいですが、凍結治療後の瘢痕は小さいからです。

2.治療後、6か月後の瘢痕範囲の数値を凍結治療と放射線治療で比べると、明らかに凍結治療の方が瘢痕範囲は小さいことが判ります。
瘢痕範囲が広いことは肺のダメージが広くなり、肺機能が低下することを意味します。報告では放射線治療後の肺機能低下は8%であり、凍結治療後の肺機能低下2%より高くなります。

3.放射線治療は間質性肺炎を伴っている肺癌には不可能ですが、凍結治療は間質性肺炎を伴っていても可能です。図に示した症例は間質性肺炎で酸素治療を受けている患者様ですが、凍結治療を行いました。

退院後も間質性肺炎の増悪はなく、腫瘍の再発もありません。
4.放射線治療後に局所再発をすると、再度の放射線治療はできませんが、凍結治療は何回も行うことができます。
5.放射線照射は複数病変の治療は困難ですが、凍結治療は複数病変でも可能です。
6.放射線照射に感受性の低い癌(特に転移性肺癌)でも凍結治療は治癒させる可能性が高いです。

凍結治療の欠点
 1 .放射線治療が保険適応ですが、凍結治療は自費診療です。
2.“針を刺す”ことにより、気胸(針孔から空気が漏れて肺が一時的に縮む)の生じることが約20%(当院データ)にあることです。但し気胸を生じた際には胸に管を入れますが、多くの場合2-3日間で気胸は治り退院できます。

2 手術療法との比較
凍結治療の利点
手術療法はすべての治療法の中で最も治療成績の良い治療です。しかし手術では胸腔鏡のように小さな傷で行っても痛みを伴い、肺機能も低下します。凍結治療は針1本を胸壁から刺入して行う治療なので、手術より治療後の痛み、肺機能低下は明らかに少なくなります。

凍結治療の欠点
1 .自費診療となります
2 .手術治療の局所再発率が約5%以内であるに対して、凍結治療では腫瘍が大きくなると局所再発率が高くなります。

凍結治療にかかる費用

保険適応ではないので、自費診療となります。
費用は治療費+入院費+消費税込みで55万円です。
但し腫瘍が大きい、あるいは腫瘍が2箇所ある場合には、針を2本使用します。針1本が15万円ですので、その際には55+15=70万円となります。

治療をご希望される方、あるいは治療のご質問をされたい方は、当院呼吸器外科の野守医師の外来(月曜日と木曜日)を受診してください。

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