凍結治療の詳細

同治療は局所麻酔で約1-2時間かけて行う治療ですが、治療中は軽度の鎮静剤を用いて行いますので、患者さんは“うとうとした状態”で楽に治療を受けられます。また傷は針の孔だけなので術後の痛みはほとんど無く、通常治療後-4日目には退院でき、退院後翌日からは通常の社会生活に復帰できます。そのため手術が困難であるといわれる高齢者あるいは体力に余裕のない患者さま、また手術を希望されない患者さまにはこの凍結治療を行っています。後述しますが、多発肺転移に対しては時に免疫療法効果(アブスコパル効果)も発揮することが時に(頻度:約10%)あり、多発転移のある患者様に凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用を行うことで、免疫薬剤の効果を高める可能性があります。

凍結治療に用いられる針は、その周囲約4-5cmの範囲で癌とその周囲の正常組織を凍らせます。以下の図は水の中に凍結針を入れて凍結させた写真ですが、体の中でもこのように組織が凍結されます。

凍結治療はCT室で行うもので、凍結針を刺す場所に局所麻酔をして腫瘍に刺して、凍結して癌を死滅させる治療です。局所麻酔で行いますので手術に比べると低侵襲な治療です。

下の図は凍結治療中、治療後のCT写真です。肺の部位に凍結用の針が刺入され、がんの周囲を凍結させます。治療後、凍結した部位は6ヶ月ほどの間で徐々に縮小していきます。

この治療は自費治療であり、治療費、入院費、消費税込みで“55万円“”となります。

凍結治療が適応となり得る腫瘍を以下に列挙します。
1 .腫瘍のサイズが原則として3cm以下の原発性肺癌あるいは転移性肺癌。
2 .病変の数が原則として1個あるいは2個。
3 .但し、病変が2個以上の多数の転移性肺癌でもその内の1-2個が大きく、大きな転移巣により余命が短くなる可能性がある場合には凍結治療の適応となり得ます。
4 .放射線治療後の肺病変の再発。
5 .手術療法が本人にとって危険性が高い。
6 .手術療法が危険でなくても、本人が手術療法あるいは放射線療法より凍結治療を強く希望する。

凍結治療の現在までの成績

現在まで液体窒素で凍結治療した273人の患者様の内、原発性肺がんの患者様の生存曲線を示しますが、現在まで90%以上の方が生存されています。なお治療による重症な合併症は併発しておりません。

 

凍結単独治療の現在までの成績

まず凍結による単独治療の成績を紹介します。
原発巣制御率(原発巣から再発していない確率)を腫瘍のサイズ毎にグラフに示します。
2019年9月現在、“1.8cm以下”の肺がん、74名に対しては100%、“1.8cm以上”では約70%です。

“2cmより大きな肺癌”に対する治療成績を上げるために行い始めたのが “放射線治療後+凍結治療”の併用療法

2cmより大きな肺癌においては凍結治療および定位放射線治療ともに治療成績が良くないので、当院では2cm以上の肺癌に対しては”放射線治療+凍結治療“の併用を行っています。
定位放射線治療を4-5日間行った後、1ヶ月以内に凍結治療を追加する方法です。
両者の併用により腫瘍を壊死させる力が高まることが予測されます。以下の図に定位放射線治療+凍結治療を行った患者様のCTとPET所見を示します。

現在まで65人の患者様に放射線治療+凍結治療を行ってきました。最終的な治療成績はまだ不明ですが、現時点では局所再発は5人に生じており、3年の局所制御率は83%です。放射線による肺炎を生じて、肺炎の治療を要した患者様は3人(5%)ですが、定位放射線治療単独による放射線肺炎の併発率と差はありませんので、凍結治療が放射線治療による肺炎発生率を高くすることはありません。まだ経過観察の日が浅いので最終評価はできませんが、2cmより大きな肺がんに対しては定位放射線治療+凍結治療の併用療法はそれぞれの単独治療より効果が高いことが予測されます。

凍結治療と他の治療との比較

1 手術療法との比較

手術療法はすべての治療法の中で最も治療成績の良い治療です。
しかしある程度の侵襲を伴います。凍結治療が手術療法より優れている点は低侵襲治療であることです。手術は胸腔鏡手術であろうと基本的に胸壁に数センチの傷を入れて行い、肺の内部深くまでメスを入れます。どんなに小さな傷でも痛みはあり、また肺を切除することはそれなりの侵襲を伴います。それに対して凍結治療は局所麻酔下で針1本を胸壁から刺入して行います。そのため凍結治療後の痛みおよび体力低下は手術療法より極めて少なくなります。

手術治療と比べた凍結治療の欠点は
1 .自費診療である(55万円)
2 .手術治療の局所再発率が約5%以内であるに対して、凍結治療の局所の再発率が高くなることです(再発率は腫瘍の大きさにより異なります)。

2 放射線療法との比較
凍結治療の利点
凍結治療が放射線治療より優れた点は
1.放射線治療は肺機能の低下を生じますが、凍結治療は肺機能の低下を生じません。
2.放射線治療は間質性肺炎を伴っている肺癌には不可能ですが、凍結治療は間質性肺炎が活動性でなければほぼ可能です。
3.放射線治療後に局所再発をすると、再度の放射線治療はできないことに比べて、凍結治療は何回も行うことができます。
4.放射線照射は複数病変の治療は困難であるが、凍結治療は複数病変でも可能です。
5.放射線照射に感受性の低い癌(特に転移性肺癌)でも凍結治療は治癒させる可能性が高い、と言うことです。

凍結治療の欠点
1 .放射線治療が保険適応になるのに対して、凍結治療は保険が効かない自費診療です。
2.“針を刺す”ことにより、気胸(針孔から空気が漏れて肺が一時的に縮む)の生じることが約20%(当院データ)にあることです。なお気胸を生じた際には胸に管を入れて治しますが、多くの場合2日間で気胸は治り、管は抜かれて退院できます。

転移性肺癌に対する凍結治療

100例の転移性肺癌に対して凍結治療を行ってきました。その治療成績を以下にしめしますが、2cm以下の転移性肺癌は90%の局所制御率(治療部位から再発しない確率)があり、2cm以下であれば凍結治療で転移を消失させる可能性が高くあります。2cm以上では治療部位から再発する確率が50%ほどとなります。

時に生じる凍結治療による免疫療法効果(ワクチン効果)

凍結治療は時に免疫療法効果も同時に発揮することが10%程あります。その機序は凍結治療により死滅した腫瘍がワクチンとして作用し、体がその癌に対する免疫能力を獲得するからです。それを凍結免疫効果と呼びます。その免疫療法効果(ワクチン効果)が明らかになるのが、多発肺転移に対して、大きな転移巣のみに凍結治療をしたときです。以下に具体的な症例を示します。

この患者様は肉腫の多発肺転移に対して大きくなってきた転移巣2箇所のみに凍結治療を行いました。凍結治療により転移巣は消失しましたが、その他の小さな肺転移巣が縮小しています。その間、抗がん剤治療を行っていません。何故このようなことが生じるかと言うと、凍結治療した腫瘍が死滅し、腫瘍の死骸がワクチンのように作用し体が免疫能を取得し、残りの転移巣を攻撃したことにより生じる免疫療法効果です。現在まで明らかに他の転移巣が縮小した確率は10%程度で、その頻度は高くはありません。しかし凍結治療の場合、腫瘍の細胞蛋白は変性しないために腫瘍の死骸がワクチンのように作用し、他の転移巣を縮小させなくても、その増殖をある程度は抑えることが期待されます。

そこで開始したのが、通常の抗がん剤や放射線治療が無効の肺癌に対する「凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用療法」

以前より、多発転移のある原発巣に対して凍結治療や放射線治療を行うと、治療をしていない転移が縮小する“アブスコパル効果”が報告されています。機序は凍結治療や放射線治療により細胞死した腫瘍細胞から腫瘍関連の蛋白が放出され、癌に特異的な免疫が強まり、免疫細胞が癌を攻撃することによるワクチン効果です。特に凍結治療は癌の細胞膜が破壊されるので、その際に癌細胞の蛋白が大量に放出されることが予測されます。
一方、肺癌に対して近年、オプチーボやキイトルーダと言った免疫チェックポイント阻害剤が生存を延長させることが報告され保険適応となっています。また肺癌以外の癌にもミスマッチ修復機能という遺伝子異常を有する癌にも免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことが分かり、保険適応となっております。
そのため凍結治療で癌の蛋白を放出させ、そこに免疫チェックポイント阻害剤を併用することにより、その効果を高める可能性があります。既に放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤の併用の臨床試験は行われていますが、凍結治療との併用は行われてきませんでした。当院ではその臨床研究を倫理委員会承認の上、凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の併用治療を開始しました。

<対象>
凍結治療+免疫チェックポイント阻害剤の適応は、肺癌あるいはミスマッチ修復機能という遺伝子異常を有する癌で、III期あるいはIV期であり、既に標準的な抗がん剤あるいは放射線治療を行われたが無効であり、凍結可能な病変が存在する患者様です。但し多発転移の場合、一つ一つの病変が小さすぎるとワクチン効果が期待できないので、凍結可能な部位でも適応外になることがあります。

<方法>
凍結治療を行い、凍結治療による炎症所見が治まってから、およそ1か月以内にキイトルーダを単剤あるいは、抗がん剤+キイトルーダの併用療法を行います。キイトルーダは少なくとも3-4回、3週ごとに投与して、転移巣の縮小をCTでフォローします。効果があれば薬剤投与は続行します。

切除不能な胸腔内腫瘍に対する手術中の凍結治療

切除不能な胸腔内腫瘍においても、腫瘍のサイズが大きくなければ、手術中に凍結治療を行うことも可能です。以下の症例は心臓に生じた肉腫であり、抗がん剤で肉腫を小さくした後に、残存した腫瘍に対して、手術中に人工心肺を用いて心臓の動きを止めて、腫瘍に凍結用の針を刺し凍結治療を行った患者様のCT写真と手術中の写真です。患者様は翌日には歩くことができ、1週間後に退院しました。

凍結治療にかかる費用

保険適応ではないので、自費診療となります。
費用は消費税込みで55万円です。
但し、腫瘍が大きい、あるいは腫瘍が2箇所ある場合には、針を2本使用します。針1本が15万円しますので、その際には70万円となります。

治療をご希望される方、あるいは治療のご質問をされたい方は、当院呼吸器外科の野守裕明の外来を受診してください。

文責:呼吸器外科 野守 裕明

柏厚生総合病院における凍結治療に関する学会発表

2019年9月4日、5日にイスラエルで開催された国際凍結学会で、3cm以下の原発性肺癌に対する凍結治療の成績を発表しました。

 診療科一覧へ戻る

診療科の紹介