手術および放射線治療が不可能な肺癌に対する “血管カテーテル治療(腫瘍血管塞栓術)”いわゆる “兵糧攻め”治療
肺の根元や胸の中央にある大きな肺癌あるいは縦隔腫瘍は、時に抗がん剤が無効で、手術、放射線治療も不可能な場合があります。しかしそれら身体の中心部に近い腫瘍は大きな血管から腫瘍を栄養する血管(腫瘍血管)が発達し、多量の血液を供給されています。そのため腫瘍血管を閉塞すれば血流は途絶え、腫瘍が縮小あるいは成長が止まることがあります。そこで太ももの付け根の大腿動脈からカテーテル(細い管)を挿入して腫瘍血管に誘導し、そこから血管を閉塞(塞栓)させる物質(NBCAと言う血管注入用アロンアルファ)を注入します。すると腫瘍への血流が減少あるいは途絶え、腫瘍を “兵糧攻め”することができ、腫瘍が縮小します。
写真は肉腫の両側肺転移で、左肺の根元の腫瘍が増大して、左肺が潰れた患者様に対して気管支動脈の塞栓術を行ったことにより、腫瘍が縮小し無気肺が治った症例です。



2013年から2018年まで42例の肺門あるいは縦隔の腫瘍に対してこの“カテーテル治療”を行いました。グラフは当院呼吸器外科の野守医師が、2020年、国際医学雑誌、European Journal of Radiologyに発表したものです。腫瘍サイズが半分以下になった有効例は17例(40%)で生存が延長されます。但し腫瘍を完全治癒させるほどの効果はなく、いずれまた増大するので、目的は一時的な縮小による余命延長です。またNBCAは多くの場合、完全に腫瘍血管を閉塞するので、繰り返すことはできず一回のみの治療となります。

腫瘍血管への抗がん剤注入+塞栓術
上記のアロンアルファによる血管塞栓術が1回しか使用できないので、何回も使用できる塞栓物質(へパスフェアという塞栓物質)を利用して、“腫瘍血管への抗がん剤注入と塞栓術を併用した治療”も行っています。その際、最初に腫瘍血管に抗がん剤を注入します。それにより点滴での抗がん剤投与より高い濃度の抗がん剤が腫瘍に行きわたります。その後、塞栓物質と抗がん剤を同時に注入すると血流が途絶えるうえに、一緒に注入された抗がん剤が腫瘍血管内に長期に留まるため、長期間に渡り抗がん剤が徐々に放出されるので(徐放効果)腫瘍が縮小します。特に肺の根元の肺癌に有効です。
写真は肺の根元に生じた大きな肺癌で手術および放射線治療は不可能な患者様です。それに対して腫瘍血管への抗がん剤注入+塞栓術を3回施行後、腫瘍は縮小し当初認められた血痰も消失しました。しかしこの治療の場合も癌を完全消失させることはできませんので、目的は一時的な腫瘍の縮小による余命延長です。

文責:呼吸器外科 野守 裕明
