<背景>
癌に対して最も強力な治療は手術療法ですが、手術療法ができない場合は放射線治療や抗がん剤治療が標準治療です。しかしそれらも困難な場合、免疫治療が一つの選択肢となります。
凍結治療によるワクチン効果(アブスコパル効果)
多発肺転移に対して1か所を凍結すると、凍結をしていない他の転移巣も小さくなる免疫療法効果(アブスコパル効果)が見られることがあります。その機序は凍結治療により死滅した癌がワクチンとして作用し、体がその癌に対する免疫能力を獲得するからです。現在まで明らかに他の転移巣が縮小した確率は10%程度とその頻度は低いです。
癌に対する樹状細胞ワクチン療法
癌に対する免疫治療として“樹状細胞ワクチン療法”があります。樹状細胞は誰でもからだ中に持っている免疫細胞であり、癌抗原を認識しリンパ球に癌のタンパク質や糖タンパク質(癌抗原)提示して癌を殺すリンパ球を作ります。しかし樹状細胞の体内存在数は極めて少なく、通常ではその効果はあまり期待できません。当院と共同で治療を手掛けるプレシジョンクリニック(東京、名古屋、大阪)では患者様から作製した大量の樹状細胞を癌抗原と培養することにより、樹状細胞の免疫能を増強させた後に皮内投与する“樹状細胞ワクチン療法”を行っています。皮内投与された大量の樹状細胞はリンパ球に働きかけ、癌を殺すリンパ球(キラーT細胞)を効率よく作ります。
樹状細胞ワクチン療法+凍結治療の併用療法
樹状細胞ワクチン治療に凍結治療を併用することにより、ワクチン効果をさらに高める可能性があります。当院とプレシジョンクリニックでは共同でこの併用療法を行っています。この治療の機序を図で説明します。治療の対象となる患者様は肺癌の多発転移、あるいは多発転移の内、大きな腫瘍(概ね3cm以上)が肺に存在し、抗がん剤や放射線治療で縮小しない、あるいはそれらの治療が困難な悪性腫瘍の患者様です。
がん細胞は「免疫細胞の働きを抑制して攻撃をしないように」と免疫の働きにブレーキをかけるバリアを持っています。
まず凍結治療の前にプレシジョンクリニックにて樹状細胞の皮内投与をします。


樹状細胞はがん抗原を認識してリンパ球の内のT細胞に働きかけ、癌を殺すキラーT細胞が作る働きがあります。さらに低用量(通常量の8%)の免疫剤(免疫チェックポイント阻害剤)を点滴投与することにより癌のバリアは解除されます。
その後、当院(柏厚生総合病院)において肺の原発巣あるいは最も大きな転移巣に凍結針を刺入し、凍結治療を行います。


癌の凍結壊死により癌抗原が放出されます。
皮内投与された樹状細胞は癌抗原を認識できるようになります。
癌抗原を認識した樹状細胞はリンパ球の内のT細胞に働きかけ、癌を殺すキラーT細胞を作り免疫が立ち上がります。
キラーT細胞が全身の転移巣に対して攻撃し始めます。

凍結治療後、数日で退院し、プレシジョンクリニックにて2-3週ごとに樹状細胞の皮内投与(+必要に応じて低用量免疫の点滴投与)を行います。
まだ研究中の治療ですのでその有効性は不明ですが、既に抗がん剤や放射線治療を行い無効の場合には治療選択肢の一つとなり得ます。
但し樹状細胞ワクチンも凍結治療も自費診療となり、それぞれ約300万円と約70万円かかります。
