血液内科

診療内容

近年、血液領域における治療の進歩は目覚ましく、次々と新規薬剤が登場するにつれ、その治療方針も目まぐるしく変化していく状況となっています。最新の情報を元に、最良の治療を提供できるよう心掛けております。当科では、悪性リンパ腫や急性白血病といった血液悪性腫瘍の診断・治療に加え、再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病といった血液良性疾患の診断・治療を中心に行っております。
さらに、今後は、幅広い癌腫に対する化学療法についても近隣施設や関係各科と連携しながら診療の幅を広げ、地域の基幹病院として、がん集学治療の一端を担っていきたいと考えています。

血液悪性腫瘍診療について

当院では、様々な血液悪性疾患に対する診断・治療を幅広く行なっております。診断に必要な各種画像検査はもちろんのこと、血液悪性腫瘍診療に必須の骨髄検査(骨髄穿刺/骨髄生検)も常時施行しています。

悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、白血球の一種である成熟リンパ球を発生母地として発症するリンパ系悪性腫瘍の一種で、全身のリンパ節腫脹や発熱、体重減少、皮疹などの症状を呈することがあります。
我が国の2013年がん統計罹患データ(全国推計値)によると、人口10万人対で男性年間22.3人、女性18.3人で、70歳をピークとして発症します。組織型は非ホジキンリンパ腫(NHL)とホジキンリンパ腫(HL)に大別され、組織型によって治療方針が異なります。
①中等悪性度非ホジキンリンパ腫について
非ホジキンリンパ腫のうち、比較的進行速度の速い中等悪性度(週〜月単位)のリンパ腫に対しては、R-CHOP療法が標準治療とされており、腫瘍の拡がり(病期)や初発時の予後予測モデル(IPI,R-IPI)によって、放射線療法との併用や治療強度をあげた各種化学療法を行い、治療成績の向上を目指しています。
再発や治療抵抗性の場合には、自分の造血幹細胞を用いた超大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植も施行しております。当院には無菌室の併設および末梢血幹細胞採取体制も整備されており、これらの患者さんの治療に対して、十分対応可能な状況にあります。
②低悪性度非ホジキンリンパ腫について
比較的進行の遅い低悪性度リンパ腫(月〜年単位)に対しては、診断確定後即治療を必要とするわけではありません。腫瘍量や患者さんの状況に合わせて、治療介入が必要になるまで慎重に経過を見守る選択肢もあります。治療が必要となった場合には、他のリンパ腫同様、化学療法や放射線治療が治療の中心となります。
近年、この分野に新規薬剤の追加がなされており、組織型に合わせてオビヌツズマブ(商品名:ガザイバ)やベンダムスチン(商品名:トレアキシン)、レナリドマイド(商品名:レブラミド)、ボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)が加わり、治療選択肢の増加、治療成績の向上が図られています。
③末梢性T細胞リンパ腫について
非ホジキンリンパ腫の中では比較的頻度が少なく、長く治療の進歩に乏しかった腫瘍ですが、近年、最も治療に大きな変化が生じた悪性リンパ腫の分野になっています。
抗CCR4抗体であるモガムリズマブ(商品名:ポテリジオ)や抗CD30抗体に抗がん剤を結合したブレンツキシマブ-ベドチン(商品名:アドセトリス)、プララトレキセート(商品名:ジフォルタ)、ロミデプシン(商品名:イストダックス)などの新規治療薬が次々と使用可能となり、今後、さらに治療成績の向上が期待されています。
④ホジキンリンパ腫について
わが国では、比較的頻度の低いタイプのリンパ腫であり、20歳代と60歳代に発症のピークが認められる疾患です。化学療法への反応性は良好で、長らく従来からの抗がん剤治療であるABVd療法(±放射線治療)が標準治療とされています。近年、抗CD30抗体であるブレンツキシマブ-ベドチン(商品名:アドセトリス)が登場し、治療の選択肢が増えてきています。
また、再発・難治性の場合、様々な癌種で治療効果が認められている免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブ(商品名:オプジーボ)、ペンブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)も国内承認され、さらに治療成績が向上しています。

◇多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は、免疫担当細胞である形質細胞(主に抗体を産生する)を発生母地とするリンパ系悪性腫瘍の一種です。進行すると、貧血や血小板減少、腎機能障害、骨折や骨痛、感染症に罹りやすくなるなどの症状を呈します。以前は治療法も乏しかったのですが、近年ではサリドマイド(商品名:サレド)の登場を皮切りに、新規薬剤が次々に登場し、治療成績が格段に向上しています。若年者に対しては自家末梢血幹細胞移植を前提とした強力な治療を行い、無治療期間を含めた長期生存を目指します。
また、新規治療の登場により、従来は積極的な治療の対象とならなかった高齢患者さんにも、一人一人の状態に応じた治療が可能となり、生存期間の延長が認められています。今後さらに新たな治療選択肢が増えていくことが見込まれており、ますます予後の改善が期待される分野です。

急性骨髄性白血病/骨髄異形成症候群
骨髄中で幼若な造血細胞ががん化し増殖する疾患が急性白血病であり、その中でも骨髄球系の幼若細胞から発生したものが急性骨髄性白血病(AML)です。発生から症状出現までが短期間であり進行速度が極めて急速(日単位)なため、早急に診断確定、治療開始をしなければならない場合が多い疾患です。発症すると、発熱や貧血、血小板減少による出血、感染症などの症状が出現します。
診断確定には骨髄検査が必須であり、顕微鏡での確認で診断されます。また、治療法の選択、治癒の見込み、同種移植の必要性を判断するため、近年では診断時に腫瘍細胞のもつ異常な染色体や遺伝子を検査し、それに基づいた治療戦略を立てることが重要です。
治療の原則は抗がん剤治療による全ての白血病細胞の排除(Total Cell Kill)のため、無菌室管理の元で強力な抗がん剤治療を行います。ただし、腫瘍細胞のもつ遺伝子異常の種類によっては抗がん剤のみでは治癒可能性が低いと推測されることがあり、その場合には骨髄移植を含めた同種造血幹細胞移植が必要となります。当院では同種移植は施行しておりませんが、個々の患者さんの移植必要性を判断した上で、移植施設との密な連携のもとでシームレスな治療を行えるよう対応しています。
骨髄異形成症候群(MDS)は、骨髄の造血幹細胞に発生した遺伝子異常を原因として形態異常(血球の形がおかしい)や機能異常(血球の働きがおかしい)をきたす疾患です。高齢者に発生することが多く、進行すると輸血が必要な状態となったり、感染症を繰り返すようになります。一部の患者さんでは急性骨髄性白血病に進行していくことがあり、前白血病状態とも言えます。残念ながら根本的な治療は困難ですが、比較的若年の患者さんの場合には同種移植の適応となります。大半の患者さんは移植の適応となりませんが、白血病への進行が危惧される高リスク患者さんに対してはアザシチジン(商品名:ビダーザ)が病状の進行を抑制する効果が認められています。当院でも、患者さんの状態に応じて、上記の治療提供を実施しています。

急性リンパ性白血病
急性白血病のうちで、骨髄中で幼若なリンパ球系異常芽球が増殖し発症するものが急性リンパ性白血病(ALL)です。AMLと同様に無菌質管理下に強力な抗がん剤治療を行なっていきますが、治癒可能性が低い患者さんについては、同種移植の適応を検討します。
近年では、化学療法後に再発した患者さんや、従来の抗がん剤治療に対して治療抵抗性の患者さんを対象としてブリナツモマブ(商品名:ビーリンサイト)やイノツズマブ・オゾガマイシン(商品名:ベスポンサ)等の新規薬剤が保険適応となり、生存期間延長効果や同種移植までの橋渡しとしての治療効果が期待されています。
さらに、患者さんから採取したTリンパ球を遺伝子改変したキメラ抗原受容体を有するTリンパ球(CAR-T)が2019年に保険適応となり、再発・難治性の場合の治療選択肢の一つとなりました。この治療法については施行可能な施設が限定されていますので、当院では同種移植同様その適応を厳密に判断し、必要時には治療可能な連携施設への橋渡しとしての役割を果たしていきます。

慢性骨髄性白血病/骨髄増殖性腫瘍
骨髄の多能性造血幹細胞の遺伝子異常から発生し、白血球や赤血球、血小板が腫瘍性に増加していく疾患を総称して骨髄増殖性腫瘍といいます。どの系統の血球が増加するかによって、慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症に分類されています。
特に、慢性骨髄性白血病(CML)は、フィラデルフィア染色体と言われる特徴的な染色体異常と、そこから発生したBCR/ABL1キメラ遺伝子およびキメラ蛋白を病因として多能性造血幹細胞ががん化した血液悪性腫瘍です。
「慢性期」と言われる約5年程度の無症状の時期を経て、「移行期」から急性白血病と同様の病態に急激に変化する「急性転化期」へと進行します。急性転化した場合には救命困難となる可能性の高い疾患でもありますが、現在は異常なキメラ蛋白の機能を抑えることで急性転化を防ぐチロシンキナーゼ阻害剤が登場し、治療継続することで長期間にわたって無症状での生存が可能となっています。当院では、患者さんの状態に合わせた形でできるだけ長く治療継続できるよう、コミュニケーションを密に行いながら診療を行っています。

血液良性疾患診療について

特発性血小板減少性紫斑病
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、自分の免疫の異常により血小板が破壊されてしまうことで血小板数が減少し、皮膚の内出血(紫斑)や鼻出血といった出血症状をきたす難治性疾患です。異常な免疫を抑制するため、ステロイドホルモン剤による免疫抑制療法が治療の中心となりますが、軽症でかつヘリコバクターピロリ感染がある患者さんの場合には、除菌療法を行うことで血小板数の回復が認められる場合もあります。
しかし、免疫抑制療法後に再発したり、脾摘術の適応が難しい場合には、血小板産生を増やして血小板数を維持するTPO受容体作動薬が適応となります。現在、エルトロンボパグ(商品名:レボレード)とロミプロスチム(商品名:ロミプレート)が適応となっており、血小板数上昇による出血予防が可能となっています。

再生不良性貧血
免疫異常の結果、骨髄中の多能性造血幹細胞が破壊・消失していく難病が再生不良性貧血です。重症の場合、骨髄での造血不全の状態となり、末梢血で全ての血球が減少する「汎血球減少」の状態となります。貧血、易出血性、易感染性の症状から、頻回の輸血が必要となったり、肺炎などの重篤な感染症を反復するようになります。
45歳未満の若年患者さんの場合は同種骨髄移植の適応ですが、45歳以上の患者さんに対しては、免疫抑制療法が標準治療となります。治療に際しては、高度の免疫抑制状態となるため無菌室管理を必要とします。
また、近年、ITP同様にTPO受容体作動薬が保険適応となり、免疫抑制療法で効果不十分な患者さんや輸血依存状態の患者にとって有益な治療法となっています。
45歳以上の患者さんであっても、薬物療法で効果不十分な場合には、当院にてメリット/デメリットを踏まえて適応を判断し、移植施設へ同種造血幹細胞移植を依頼しています。

凝固異常症
凝固は、怪我などの必要時に血液が固まるよう促し、止血を行う生命維持に必須の機能です。凝固異常症の多くは先天性ですが、後天性に発症したものを後天性凝固異常症といいます。最も頻度が高いものが後天性血友病です。後天性血友病Aでは、第Ⅷ因子に対する自己抗体が産生されることで第Ⅷ因子が欠乏し止血ができなくなるために重篤な出血症状が起こります。この場合、先天性血友病で使用される第Ⅷ因子製剤は無効のため、自己抗体の産生を抑制する免疫抑制療法が治療の中心です。さらに近年、第Ⅷ因子を介さずに凝固を正常化できるエミシズマブ(商品名:ヘムライブラ)が登場したことで重篤な出血を確実に防ぐことが可能となり、より安全に治療可能となっています。

がん化学療法診療について

がん治療における化学療法の位置付け
近年、遺伝子学的研究手法の進歩により、悪性腫瘍であるがんの病態形成や増殖に関係する様々な遺伝子異常が特定されてきています。それらの研究結果を元に新たな治療の標的となる分子を特定することで新たな治療薬・治療手段の目覚ましい開発がなされてきました。特に、様々な分子標的薬の登場があり、年々、多くの癌種で治療効果の向上、生存期間の延長が認められるような時代になってきました。
がん薬物療法の重要性は、がん治療の中心である外科的治療(手術)、放射線治療とともに、今後さらに上昇していくものと考えられます。同時に、治療の複雑化、ニボルマブやペンブロリズマブといった免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)のように新たな薬剤による新たな有害事象の問題があり、治療全体をより高度にマネジメントすることが要求される時代でもあります。そのためには、特定の医師のみならず、関係各科医師、看護師(病棟、外来)、薬剤師、検査技師、臨床心理士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど治療に関わる様々な職種がそれぞれ役割と責任を果たしながら一人の患者さんに向かい合うチーム医療の充実が極めて重要となります。
その状況において、チーム全体のマネジメントを行っていくことが、抗がん剤治療を担う腫瘍内科医に求められる役割です。将来的には、多職種による多様な視点からの情報を元に、患者さんに必要なタイミングで必要かつ適切な医療を提供できるよう、当科が関係各科の専門医との橋渡し、さらには連携施設との橋渡し役を担っていきたいと考えています。

医師

部長 松島孝充

学歴

九州大学 H6卒

所属学会

日本内科学会   日本血液学会
日本リウマチ学会 日本臨床腫瘍学会

認定等

日本内科学会認定医
日本内科学会総合内科専門医
日本血液学会指導医・専門医
日本臨床腫瘍学会指導医
日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
日本リウマチ学会専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
臨床研修指導医
難病指定医

 診療科一覧へ戻る

診療科の紹介