凍結治療の詳細

CT室で全身麻酔後、凍結針を写真のように腫瘍に刺して凍結融解を繰り返します。写真は液体窒素による凍結です。アルゴンガスによる凍結治療もほぼ同じ大きさの機械で、同様に行います。
写真は凍結治療中、治療後のCT写真です。肺の部位に凍結用の針が刺入され、がんの周囲を凍結させます。治療後、凍結した部位は6ヶ月ほどの間で徐々に縮小し瘢痕状になります。

凍結治療に用いられる針は、その周囲約4cmの範囲で癌とその周囲の正常組織を凍らせます。写真は水の中に凍結針を入れて液体窒素を用いて凍結させた写真ですが、体の中でもこのように癌が凍結されます。
現在まで当院呼吸器外科の野守医師が行った凍結治療の成績は国際雑誌に発表されており、原発性肺癌に対する成績は2020年にEuropean Journal of Radiology、転移性肺癌に対する成績は2022年にClinics in Oncology、放射線治療+凍結治療併用は2025年にPLOS ONEに掲載されております。

肺癌に対する凍結治療は当初は局所麻酔+静脈麻酔で行っていましたが、2020年10月より麻酔器を用いた全身麻酔で行うようにしました。理由は凍結治療には約2時間かかり、その間、患者様はCT台の上で “動かない姿勢を保つ”という精神的な負担を強いられます。それを軽減するために気管にチューブを入れて行う全身麻酔に切り替えました。もう一つの理由は針を刺入する間に呼吸を安全に止めることができ、針を正確に腫瘍の中心に刺せることです。全身麻酔ですが、治療が終わった直後より意識は清明で歩くことも不自由なくできます。通常治療後1-4日目には退院でき、退院後翌日から通常の社会生活に復帰できます。そのため高齢者あるいは体力に余裕のない患者様でも可能な治療です。

凍結治療が適応となり得る腫瘍を以下に列挙します。
1 .腫瘍のサイズが原則として3cm以下の原発性肺癌あるいは転移性肺癌。
2 .病変の数が原則として4個以内。
3 .病変が4個以上の多発転移でもその内の1-2個が大きく、大きな転移巣により余命が短くなる可能性がある場合には、余命延長目的で大きい転移巣のみ凍結治療を行います。
4 .放射線治療後の肺病変の再発。
5 .手術療法が本人にとって危険性が高い。
6 .手術療法が可能でも、本人が凍結治療を強く希望する。

原発性肺癌に対する凍結単独治療の現在までの成績

2020年10月にEuropean Journal of Radiologyに発表した原発性肺癌に対する凍結単独治療の成績を紹介します。局所制御率(凍結部位から再発しない確率)を腫瘍のサイズ毎にグラフに示します。“1.2cm以下では局所制御は100%”, “1.3 – 1.7cmでは96%”と良好ですが、“1.8cm以上では55%”と低下します。

 

”2cmより大きな肺癌”に対する治療成績を上げるために行い始めたのが “放射線治療後+凍結治療”の併用療法

そこで当院では2cm以上の肺癌に対しては”放射線治療+凍結治療“の併用も行っています。放射線照射を4-5回行った後、1ヶ月以内に凍結治療を追加する方法です。以下の写真は脳転移があった肺癌患者様ですが、脳転移はガンマナイフで治療し、原発巣に対して放射線治療+凍結治療を行いました。2年6か月後の現在、脳転移を含めて再発はありません。

現現在まで64人の患者様に放射線照射+凍結治療を行い、その成績を国際雑誌PLOS ONEに2025年に発表しました。59人に局所再発がなく5年間の局所制御率は92%です。
2cm以上の肺癌に対する凍結単独治療の局所制御率は55%と報告されています。、放射線治療を加えることにより局所制御率は高くなります。
また5年間の生存率は75%です。

放射線単独だと2cm以上では5年生存率は48%と報告されていますので、2cmより大きな肺がんに対しては放射線治療+凍結治療の併用療法は放射線単独より有効と言えます。

転移性肺癌に対する凍結治療

121個の転移性肺癌に対して凍結治療を行ってきました。その局所制御率(凍結した腫瘍から再発していない確率)を図に示します。(Nomori et al., Discover Oncology, 2021)

2.2cm以下の転移性肺癌に対しては局所制御率が95%ですが、2.2cm以上では癌は50%に低下します。そのため現在では2.2cm以上の転移性肺癌に対しては、凍結+ラジオ波の併用療法を行い局所制御率を上げるようにしています。

切除不能あるいは放射線治療抵抗性の胸腔内腫瘍に対する手術中の凍結治療

切除不能あるいは放射線治療抵抗性の胸腔内腫瘍においても手術中に凍結治療を行うことが可能です。
以下の症例は心臓に生じた肉腫であり、手術で行い人工心肺を用いて心臓の動きを止めて、腫瘍に凍結用の針を刺し凍結治療を行いました。
患者様のCT写真と手術中の写真です。

患者様は翌日には歩くことができ1週間後に退院し、腫瘍も縮小しました。

凍結治療と他の治療との比較

1 手術療法との比較
凍結治療の利点
手術療法はすべての局所治療の中で最も治療成績の良い治療です。しかし手術では胸腔鏡のように小さな傷で行っても痛みを伴い、肺機能も低下します。凍結治療は針1本を胸壁から刺入して行う針治療なので、手術より治療後の痛み、肺機能低下は少なくなります。
凍結治療の欠点
3cm以下の原発性肺癌に対しては手術治療の局所再発率が約5%以内であるに対して、凍結治療では肺癌が2cmを超えると局所再発率が高くなります。

2 放射線療法との比較
凍結治療の利点
凍結治療が放射線治療より優れた点は
1.凍結治療では治療直後は治療範囲が広く残りますが、6-12か月後には小さな瘢痕となります。放射線治療は治療後、腫瘍の周囲に広範囲な瘢痕が生じ、それが肺機能低下につながります。報告では放射線治療後の肺機能低下は8%であり、凍結治療後の肺機能低下2%より高くなります。当院のデータでも放射線治療は凍結治療より治療6か月後の瘢痕がより大きく、肺機能はより低くなります。

2.放射線治療は間質性肺炎を伴っている肺癌には不可能ですが、凍結治療は間質性肺炎を伴っていても可能です。


写真は間質性肺炎を伴った肺癌で、間質性肺炎に対して免疫抑制剤を使用し、日常、酸素投与が必要な患者様です。治療後、間質性肺炎の増悪なく4日目に他院されました。その後、腫瘍局所の再発はありませんでした。

3.放射線治療後に局所再発をすると、再度の放射線治療はできませんが、凍結治療は何回も行うことができます。
4.放射線照射は複数病変の治療は困難ですが、凍結治療は複数病変でも可能です。
5.放射線治療は放射線に感受性の低い癌(特に転移性肺癌)では再発を生じますが、凍結治療は放射線治療よりは治癒させる可能性が高いです。

凍結治療の欠点
凍結治療の欠点は“針を刺す”ことにより、針孔から空気が漏れて肺が一時的に縮む、気胸、の生じることが約40%(当院データ)あることです。但し、気胸を生じた際には漏れた空気を排出するための管を胸に入れ、多くの場合1-2日間で気胸は治り、管は抜かれて退院できます。

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