診療方針
2024年4月、当院で婦人科を開設しました。
婦人科良性疾患に関して、子宮筋腫や卵巣腫瘍などロボット支援下、腹腔鏡下、腟式及び開腹による手術療法を中心に治療しております。手術負担の少ない、早く社会復帰できる低侵襲性手術を積極的に検討させていただきます。特に、お腹に傷がない経腟的腹腔鏡下手術(vNOTES)も行っております。子宮内膜ポリープ、粘膜下子宮筋腫に対して、子宮鏡下手術の選択肢もあります。
女性ヘルスケアでは、月経関連疾患、更年期障害、骨盤臓器脱などが挙げられます。骨盤臓器脱は保存的な治療ではなく、手術的治療も積極的に行っております。子宮内膜症は、癌化のリスクを考慮した上、自覚症状、年齢、挙児希望有無などご本人の意思を尊重し、個別に治療方針を提案させて頂きます。
婦人科では、子宮頸癌、子宮体癌および卵巣癌の悪性腫瘍に対して、手術療法、化学療法、放射線療法など実施しております。しかし、進行子宮頸癌に対する放射線治療では、腔内照射(子宮の内側から照射する小線源治療)を含めて実施不可能である場合には近隣連携病院へご紹介させていただいております。
婦人科特有な検査
◆視診
外陰部に病変がないかを調べる方法です。傷、湿疹、ただれ、腫れ、できもの、腫瘍など目視で診断ができます。例えば、バルトリン腺嚢胞・膿瘍。
◆腟鏡診
腟鏡という診察器具を、腟内に挿入し腟壁を広げて内部まで視診を行います。腟壁粘膜、子宮頸部やおりもの性状などに異常がないか確認できます。腟鏡にはさまざまな種類がありますが、一般的に用いられているのはクスコ式や桜井式です。腟鏡を挿入することで患者の負担とならないよう、年齢や状態などに合わせて腟鏡の種類やサイズを変えます。腟鏡診で下記の検査を行います。
・細胞診:子宮頚部や子宮内膜の細胞を採取して、異常がないか調べます。
採取にはヘラやブラシなどを用います。
・腟分泌物採取:腟内のおりものを採取して、ウイルス、原虫や細菌などの有無を調べます。採取には綿棒のような専用ブラシを用います。
・頚管粘液採取:頚管内の粘液を採取して、HPVやクラミジアなどの有無を調べます。採取には検査セットの専用ブラシや綿棒を用います。
◆内診
腟の中を指で触診します。子宮頸部の大きさ、硬さを評価できます。同時にお腹を上から押さえて子宮や卵巣の腫れ、押さえた時に痛みがないかなどを調べます。例えば、骨盤腹膜炎の場合には圧痛が著明です。子宮は、靭帯で骨盤と繋がっています。そのため、前後左右さまざまな方向にある程度可動する状態が正常です。子宮の可動性が良くない場合、さまざまな疾患や病気の可能性があります。例えば、子宮内膜症、子宮頸部筋腫など挙げられます。
◆超音波検査
超音波検査は、超音波を体に当てて、跳ね返ってくる反射波は画像化にして、子宮、卵巣など臓器の状態を調べる検査です。超音波機器の発達で、子宮や卵巣の中まで詳しくみられるようになりました。子宮や卵巣の位置、大きさ、子宮筋腫や子宮内膜の異常、卵巣腫瘍の有無、卵管腫大の有無、妊娠の有無、子宮周囲に腹水や血液の有無、排卵の予想など、たくさんの情報が得られます。子宮、卵巣や卵管に関連疾患を診断するのに欠かせません。
超音波を発するプローブの観察部位によって、経腹、経腟、経直腸の三つの検査方法があります。プローブは直接にお腹に当てる経腹超音波検査は排尿をがまんして膀胱に尿をためておかないと、その後ろにある子宮がはっきりと評価できません。指の太さほどのプローブを直接腟内に入れて行う経腟超音波は子宮、卵巣、卵管までの距離が近いので、より鮮明に子宮や卵巣の状態を観察できます。経腟法は、ふつう内診台の上で行われます。また、性交渉経験のない女性、特に10代の女児では、より正確な情報が得られるために、肛門からプローブを挿入する経直腸法の選択肢があります。
◆Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像装置(MRI)
MRIとは、電波と強力な磁石を利用して体内の臓器や血管を撮影する検査です。子宮、卵巣など女性性器の描出に優れ、検査時間は15~30分(造影検査は40~50分)です。磁場なので、放射線の被ばくは心配しておりません。当院では、GEヘルスケア社製3テスラMRI装置3台で検査を行っています。ほぼ8割の症例は初診時MRI撮影が対応できます。MRIは婦人科疾患の質的診断、良悪性の鑑別に重要な役割を担っています。
◆コルポスコピー検査
子宮頸がん検診で行う細胞診で異常が見つかった時には、精密検査即ちコルポスコピー検査が必要です。コルポスコピーは腟拡大鏡であり、カメラで子宮腟部の病変を拡大し、観察します。当院カシオのコルポカメラ「DZ-C100」を採用しました。以前のコルポスコピーより鮮明な子宮腟部画像、拡大機能でより正しく病変同定ができるようになりました。かつ、撮影した画像はすぐに患者さんへ提示できて、説明しやすいです。
<適応>健康診断や市区町村の自治体で実施している子宮頸がん検診で詳細な検査が必要である場合
<検査方法>

内診台で腟鏡にて子宮頸部腟部を暴露します。まず、カメラで子宮腟部を観察し、そして3%酢酸溶液を子宮腟部に10〜15秒塗布します。病変あれば、組織が白く変色し、赤点、モザイク、異型血管など現われます。異常所見があるところを特定して、生検鉗子で数ミリほどを子宮腟部の組織を採取します。この「狙い組織診」は若干の痛みと出血を伴う検査ですが、この検査結果で病変の有無や進行程度が確認できます。
たまに、異常所見が子宮腟部表面ではなく、奥の子宮頚管内に存在する場合があります。その場合には、生検鉗子で届けないので、代わりに鈍匙にて子宮頸管内膜を掻爬して組織を採取します(頚管内膜掻爬術)。
当院コルポスコピー二次検査とヒトパピローマウイルス検査と併用で子宮頸がんの前癌病変及び微小浸潤がんの検出精度を向上することを目指します。
豆知識
ASC-USと組織診
コルポスコピー下「狙い組織診」は若干の痛みと出血を伴う検査です。細胞診の結果でASC-USと判定された場合に限り、精密検査が必要かどうか決定するためのHPV検査(HPVの存在を調べる検査)を行うことがあります。ハイリスクHPVは陰性なら、コルポスコピー下組織診が避けられます。
当院の実施術式

⚫️腹式手術
お腹を十数センチ切開して子宮、付属器など摘出する手術です。病気の種類や病変の程度によって開腹手術が選択されます。腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術・腟式手術ができない難しい症例は開腹術で行われます。他の手術方法に比べて出血が多くなりやすく、傷が大きいため、術後創部感染症のリスクが増え、術後は痛みや傷の回復に時間がかかると言われています。重症で開腹手術しかできないとなる前に婦人科受診していただけたらと思います。
⚫️腟式手術
腟から直接子宮や卵管などを摘出する手術です。お腹に傷がつかないため、開腹手術に比べて術後の痛みが比較的少ない可能性があります。また、手術時間も短いとされています。しかし、腟からのアプローチのため、手術の難易度が高く、近年行える医師は減っています。腟式手術では難しい症例はできないため、他の手術が選択されることが多いです。
<利点>お腹に傷がつかない、整容性いい
<欠点>手術難度が高い
<適応>良性卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮脱
当院に施行できる低侵襲手術について紹介
⚫️伝統的な腹腔鏡下手術
<腹腔鏡下手術とは>卵巣腫瘍や子宮筋腫などに対して、以前はお腹を大きく切る開腹手術が行われていましたが、近年、おへそを約1.2cm切開し、下腹部を約5mmの切開を2~3カ所追加します。カメラを挿入し、二酸化炭素を腹腔内へ注入し、気腹を作ります。カメラで映し出された画像を見ながら、手術を行う腹腔鏡下手術が行います。当院では積極的に腹腔鏡下手術を取り入れています。良性疾患の約8割は腹腔鏡下手術で行っています。また、初期の子宮体がんに対して腹腔鏡下手術を行っています。
<利点>開腹術と比較して、侵襲が少ないため、術後の痛みが少ないです。入院期間も開腹手術であれば10〜14日かかるところが、腹腔鏡手術では5〜7日と短くなります。手術創も開腹手術では10~20cmほど切開しますが、腹腔鏡手術では12mmの切開を1カ所、5mmの切開を2~3カ所行うだけです。美容的にも優れています。また術後の癒着が少ないため、術後癒着による不妊症となるリスクを下げることができます。
<欠点>骨盤内癒着はひどくて重要な臓器(膀胱・尿管・腸管など)への損傷リスクが高い場合、術中出血多い、或いは止血困難の場合には腹式手術へ移行可能性があります。
<適応疾患>良性卵巣腫瘍、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、異所性妊娠、子宮内膜増殖症、子宮頸部高度異形成(CIN3)、初期の子宮体がん
⚫️経腟的腹腔鏡下手術(vNOTES: vaginal natural orifice transluminal endoscopic surgery)
<vNOTESとは>お腹を切らず、すべての操作を腟から行う手術です。伝統的な腟式手術と腹腔鏡下手術の合体であり、従来の腟式手術と比べて、尿管を目視で確認ができてより安全に行います。従来の腹腔鏡下手術やロボット支援下腹腔鏡下手術より腹壁に傷がないので整容性よく、さらに低侵襲医療技術です。
手術方法として、腟からアプローチへ、腟壁を切開し、vNOTES用の特殊な器具を設置してから、腹腔内に二酸化炭素を注入し、手術に必要なスペースを確保するために、気腹を作ります。その後、高解像度カメラで映し出された画像を見ながら、切除部位(子宮・卵管・卵巣)にアクセスし、特殊な手術機器をvNOTES用器具から挿入し、腹腔鏡下手術が行います。処置が完了した後は腹腔内の炭酸ガスを抜き、腟切開部を閉じます。
<利点>腹部に全く傷がないため整容性がより優れています。術後腹部の創部痛がない、創部感染・ヘルニアなど合併症は発症しません。さらに入院期間が短い、社会復帰も早いです。
<欠点>従来腹腔鏡下手術適応より狭い、例えば:巨大腫瘍、子宮内膜症、癒着症例、性交未経験の患者さまの場合には適応外になる場合があります。
<適応疾患>良性卵巣腫瘍、異所性妊娠、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症、子宮頸部高度異形成(CIN3)、子宮脱
豆知識
vNOTESの特有な器具について
GelPOINT V-Pathは2018年10月EU発売、日本では2019年11月一般医療機器として承認され、2022年11月v NOTEを導入開始しました。
⚫️ロボット支援下手術
手術支援ロボット「da Vinci Surgical System」を用いた腹腔鏡手術を行なっています。手術方法としては、腹部5ヶ所に8mmの創(傷)4ヶ所、12mmの傷1ヶ所にカニューラと呼ばれる筒を挿入します。カニューラからカメラおよび鉗子を入れ、術者がサージョンコンソールと呼ばれる装置(ロボットを操作する機械)にて3次元画像で確認しながら繊細な操作で手術を行います。
2018年4月から婦人科疾患でも保険診療となりました。
<利点>
@10倍に拡大された術野が鮮明であり、3Dの立体視で奥行きも把握することができるロボット支援下手術は人間の手以上に繊細な動きが可能なロボットアームを用いて、開腹手術では見ることが困難な狭く奥まったスペースにおいても、細かい血管や神経、リンパ管などの構造が確認できます。従来の腹腔鏡手術や開腹手術より精度の高い剥離、切開など手術が可能となります。不要な組織へのダメージが避けられるので、術中出血は少ない、術後疼痛コントロールしやすい、術後回復は早いです。
@従来の腹腔鏡手術は、先端が曲がらないので、限られる範囲で切開、縫合など操作を行います。一方、ロボット支援下手術の場合、鉗子部に関節があるため、360度の自由度があり、人間の手の270度より広い範囲で操作は実現できるので、縫合、結紮など作業を理想的な角度でより行うことができます。従来の従来の腹腔鏡手術より容易に操作ができます。
@ロボットが持つカメラは術者が自分の思った通りに移動します。
@ロボットを介して手術を行うので、手ぶれがなくなります。
@術者の肉体的な負担は大幅軽減しますので、疲労による判断ミスは減少します。
<欠点>
@開腹手術と比較して手術時間が長くなる
@腹腔鏡下手術と同様に、気腹による皮下気腫、ガス塞栓など、カニューラ挿入に伴うヘルニア、感染など起こりえます。
@術野を確保するため頭を低くすることが必要です。緑内障、脳血管疾患は適応外であり、術後に肩痛などが発症する可能性はあります。
<適応疾患>子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症、子宮頸部高度異形成(CIN3)など良性疾患の子宮全摘、早期子宮体がん
*早期子宮体がん(IA期)に限ります。
豆知識
厚生労働省の定める基準を満たした施設に限り、保険診療として、子宮筋腫や腺筋症などの婦人科良性疾患に対するロボット支援下子宮全摘術、早期子宮体がんに対するロボット支援下子宮悪性腫瘍手術、子宮脱を含む骨盤臓器脱に対するロボット支援下仙骨腟固定術を行うことが認められています。
⚫️子宮鏡下手術
子宮鏡下手術とは、細い内視鏡を子宮の入り口から挿入し、子宮の腔内をモニターで観察します。そのモニターを見ながら、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどを子宮鏡の先端にある電気メスで切開・切除する手術を子宮鏡手術といいます。
<利点>
・モニターで観察しながら行いますので、より安全で確実に病巣部の切除が可能です。
・見えるところに傷がなく、術後の痛みが少ないです。
・入院期間は2~3日であり、ほとんどの症例は退院翌日から仕事へ復帰できます。
<欠点>
@子宮鏡下摘出可能な腫瘍の大きさに限界があります。
@子宮に穴が開いてしまう子宮穿孔というリスクがあります。超音波などでモニターしながら切除を進めていきますが、子宮の壁がうすくなると予期せぬ穿孔がおこることがあります。
@水中毒という合併症があります。水中毒は手術時間が長くなると、子宮の内部に注入した液体によって血液が薄くなる現象です。
<保険適応疾患>粘膜下子宮筋腫、子宮内膜ポリープ
豆知識
*子宮穿孔は約100回に一度ぐらいの頻度で発生します。超音波などでモニターしながら切除を進めていきますが、子宮の壁がうすくなると予期せぬ穿孔がおこることがあります。子宮穿孔の発生はすぐにわかると、速やかに手術を中止し、保守治療で穴は自然に閉じることが可能です。場合により、腹腔鏡手術、あるいは開腹手術に切り替えて、縫合で穴をふさぐことになります。
*水中毒は800回に1回程度の頻度でおこります。以前、子宮鏡手術の灌流液はブドウ糖ですが、水中毒の頻度は高いですが、近年灌流液はほとんど生食塩水であるため、水中毒の合併症は少なくなりました。現在、ほとんど手術時間超過によるものです。水中毒を懸念しながら、一度手術を終了し、二回に分けて摘出することもあります。手術が完遂できない時には後日再び子宮鏡手術を行う場合がより安全です。
豆知識
子宮の構造と役割
子宮の大きな役割は体内で胎児を育てるための部屋です。子宮頸部が精子の通り道であり、月経血が体外へ出される時の排出路でもあります。また、外から子宮内への細菌の侵入を防ぐ栓の役割もしています。
