内視鏡外科 胆嚢結石症の怖さ!!
外科部長 十束 英志
心に残る患者を紹介します。私が弘前大学第2外科で診療をしていた時のこと、46歳女性が心窩部痛を主訴に外来受診しました。思いつめた表情の細身の女性は、大学病院としては珍しく紹介状を持たずに来院されましたが、聞けば5年前より胆嚢結石を指摘されていたとのこと。胆石発作かあるいは急性胆嚢炎かと思って超音波で見たところ、確かに胆石はありますが、それを取り巻く不気味な腫瘍の拡がりが描出されました。5年も前から胆石を持っていながら病院にかかっていなかったその女性に虫の知らせでもあったのか、突然、思い立って大学病院の門を叩いたその悪い予感は的中し、正常値が2、30程度の腫瘍マーカーが万を超えており、腹部CTに示す通り胆嚢結石の周囲から(図1上段)、肝臓に浸潤した巨大な腫瘍が認められました(図1下段)。進行胆嚢癌は疑う余地がなく、困ったことに、注腸造影(図2)に示す通り腫瘍に巻き込まれた大腸が狭窄を呈し、緊急で人工肛門を作らざるを得ませんでした。患者はなすすべもなく受診から3ヶ月で亡くなられ、残された子供は中学生の男の子と女子高校生が一人。目をつぶれば病室に響く娘さんの泣き声が今でも想い出され、なぜ5年前に胆石の治療をしなかったのか?、という憤りがこみ上げる次第です。


私が以前におりました病院では、胆嚢結石症の手術は年間約100件前後であり、大変頻度の多いこの病気をおさらいしましょう。図3に示すように、胆嚢は肝臓から膵臓背側を通って十二指腸に繋がる胆管の途中にある袋状の臓器です。肝臓で作られた胆汁を濃縮して食事摂取で収縮し胆汁を十二指腸に押し出す役割をしています。図4、超音波、MRCPの写真に示す如く、この胆嚢の中に石ができたのが胆嚢結石症であります。原因は脂肪摂取過多などの食生活他、諸説言われております。


胆嚢結石症の危険性を列挙しますと以下の4点であります。冒頭で触れました悪性腫瘍はもとより、その他、何れの結石による物理的な病態においても重症例は生命の危険があることを強く申し上げます。
- 1)急性胆嚢炎
- 胆嚢の出口付近に結石がはまり込み、胆嚢内に膿汁が溜まって腫れ上がった状態(図5)。
- 2)急性胆管炎
- 結石により胆管が閉塞、胆汁が流れず血液中に移行する病態。肝障害と黄疸(身体が黄色くなること)を伴い、急性化膿性胆管炎となれば極めて危険(図6)。
- 3)急性膵炎
- 落下した結石が膵胆管合流部にはまり込み、膵液の膵内への逆流を来たした病態。重症急性膵炎の死亡率は30%。
- 4)胆嚢癌
- 結石による長期の慢性刺激が癌化を引き起こすと言われている。



